2023年9月3日(日) 対象作品:岡崎藝術座『イミグレ怪談』 @久留米シティプラザ
*2016年から「シアターカフェ」を不定期で開催してきた。シアターカフェとは、観劇した後に有志の観客(10名程度)でお茶を飲みながら見たばかりの作品について語るというものだ。作品の役者・劇作家・演出家のどなたかにも参加してもらうことが多くなり、毎回かなりの盛り上がりを見せる。参加してくださった方の中には、それを機に芝居の道に入った人もいるし、開催を楽しみにしてくれている人もいる。演出家の山田恵理香さん(空間再生事業 劇団GIGA)などは、まず観客としてシアターカフェに参加したことで気に入ってくれて、自分の作品をカフェの対象作品にしないかと提案すらしてくれた(もちろんやった)。
コロナ蔓延でしばらくご無沙汰していたが、久留米シティプラザからシアターカフェをやらないかという提案をもらった。対象作品は岡崎藝術座の『イミグレ怪談』。分かりにくい作品と聞いていたので、なおのことシアターカフェにはぴったり。だが難解な作品だったらなんでもいいというわけではなく、出演者の演技や演出の工夫や気になる舞台美術があるなど、やっぱり「語りたい」と思わせるかどうかが重要なポイントだ。
さて9月3日(日)千秋楽の公演終了後、興奮冷めやらぬ様子でロビーにたむろしている人々がいる中、スタジオ2に向かう。人数が不足しているようならロビーで呼びかけようかと考えていたが、前日までに適切な人数が集まっていた。
最初は「呼んで欲しい名前」を自己紹介。参加者は多様である。高校の演劇部で副部長をやっている女の子、劇団員、女優、いずれ海外移住を考えていている70代の男性、パントマイミスト、ジャマイカでフィールド調査する研究者、日系3世の母を持つ人、遠方から帰省途中に寄って観劇した人など、11名。普段はほとんどお芝居を見ない人もいるし、日常に演劇があるのが当たり前の人もいる。10代から70代まで(各年代がほぼ揃っていた)年齢幅もあり面白い。じっさい、話題は多岐にわたった。ここには内容は書かないけれど、誰かの発言を基に想像が膨らんで思いついたり、分からなかったことが腑に落ちたりやっぱり分からないままだったり。誰かが場を独占することもなく、逆に誰かの発言を棄てることもなく、気持ちよく会話が続いていった。
30分ほど経った時に、今回出演した3名の役者さん、松井周さん、上門みきさん、大村わたるさん、そして作・演出の神里雄大さんが入室。神里さんは壁際に座ってオブザーバーになっていたが、出演した3名は(お芝居が終わった後でお疲れだろうに)私たちの輪に加わってくれる。話の流れに合わせて、時に稽古中のこぼれ話を披露してくれるし、場合によっては「あ、これ言っていいのかな」なんて神里さんの方を向いて確認しながら(問題のない程度のことだが)話してくれる。シアターカフェの参加者が緊張するでもなく変な遠慮もなく思ったことを話せているのが嬉しい。松井さんが「いやぁ、面白いなぁ、いいですね、誰の発言も否定せずいろんな話ができて」と嬉しそうに言ってくれたのが印象的だった。
シアターカフェでは、作品の関係者に来てもらっても「質疑応答」という形はしたくないと思っている(小さな確認事項はあったとしても)。色んな参加者がいる限りそのコントロールは難しいが、理想は、参加者の解釈や感想を聞いたうえで、自分たちはこんなことを考えていたと役者さんたちが語ってくれ、それを受けてまた私たち参加者が話を発展していくというかたちだ。
退室後に神里さんが、感想シェア会は大切としつつ、「どうしても答え合わせに陥りがちなので、そこからはできるだけ離れた議論になるようにするにはどうしたらいいだろう」と話していたと、スタッフから聞いた。確かに分かりにくい芝居であるほど「答え合わせ」をまずやってしまう。--ただ、私は観客同士であれば、ある程度は許容範囲ではないかと思う。議論を深めていくためには、疑問の確認や見解の相違の確認が必要だと思うからだ。そこで議論が終わってしまえば「答え合わせ」だが、そこからさまざまな意見が出たり話が発展したりするならば、それは単なる確認ではないかと考えている。要は、どれだけ議論を発展させられるかということだろう。その意識は、ファシリテーターとして忘れないようにしようと思う。
次回は12月17日、百瀬文『わたしのほころび』にてシアターカフェを開催予定。今回とは全く違ったタイプの作品で面白くなりそうだ。