北九州芸術劇場20周年を祝して (キタゲキオープンデイズ)

 愛されている劇場だと思う。大ホールにて多くの劇場スタッフが、劇場近隣の商店街の人たちが、今までかかわった市井の人がプロのダンサーが劇団の人々が、『コクラバーナ』(『コパカバーナ』のメロディを使ったオリジナルダンス)を踊っている姿を見て、そう思った。キタゲキオープンデイズを締めくくるクロージングの話である。

 

 北九州芸術劇場(現 J:COM北九州芸術劇場)が2023年8月11日に開館20周年を迎えた。オープンしてから、いや、その前の「北九州芸術祭」開催の頃から長く楽しませてもらってきた私としては、この劇場に対して親近感と(たくさんの作品で楽しませてもらったという)感謝と共に、取り組みに対しての素直な感嘆の気持ちがある。それらを込めて、キタゲキオープンデイズの一部を記録として残しておこう。

ラインナップ

 劇場20周年を記念した「劇場的文化祭」と銘打って開かれたのが、今回の「キタゲキオープンデイズ」であった(2023年8月11日~12日)。内容を紹介すると、0)オープニング、1)キタゲキマルシェ(大ホールのホワイエに出店)、2)市民ステージ「あなたが主役! キタゲキ大ホールでやりたいことやっちゃおーぜ!」(6月までに申し込んだ団体が、大ホールにてパフォーマンスを行う)、3)踊る舞台機構ショー&バックステージツアー(舞台機構が音に合わせて動く機構ショーと30名限定で5回に亘ってバックステージを案内するもの)、4)みんなでダンスストレッチ、5)演劇LOVE♡キタキュー文化祭(5本の短編の演劇とトークショー)、6)劇場ピアノ(劇場のロビーに登場したピアノを誰でも演奏可能)、7)うごく音を感じてみよう 8)みんなでクロージング(大ホールにてダンスで締める閉会式)、9)特別展示・北九州芸術劇場の20年展(当劇場で上演された作品のポスター展)、というラインナップであった。

踊る舞台機構ショー

 私は「演劇LOVE♡キタキュー文化祭」目当てに12日のみ劇場に行った。風船でデコレーションされた劇場周辺、スタッフは揃いのTシャツを着ている。なじみのスタッフもいて、今日は全員駆り出されていますとにっこり。時間があったので、まずは「踊る舞台機構ショー」を見る。開館した20年前に同じものを見たなと記憶を掘り起こす。普段は絶対に主役にならない吊物やら照明器具が音楽に合わせて「踊る」。「縁の下の力持ち」(いや、舞台の上の力持ち?)にスポットが当たるというのもいいものだ。彼らのおかげで日々、素晴らしい舞台作品を見ることができているのだから。まるで意思を持つ生き物のように動いている吊物を見ながら、劇場の神様はこういうところに潜んでいるのかもしれないと思う。

演劇LOVE♡キタキュー文化祭

 さてお目当ての「演劇LOVE♡キタキュー文化祭」はオープニングから終演までに7つの短編芝居とトークショーがあり、途中に短い休憩を2度挟むけれど4時間ぶっ通しのかなりハードな企画。司会進行を泊篤志(飛ぶ劇場)、守田慎之介(演劇関係いすと校舎)、山口大器(劇団言魂)の三人が担当し、軽やかに進めていく。

 一本目は、『きたいしたい』(劇団言魂)。5月に宮崎県三股での「まちドラ!」にて上演した作品の再演。恋人に振られたミナモと、彼女を慰めるために一緒に海にやってきたキラリ。ミナモはビニールにため息を詰め、これは幸せを詰めているのだと言う。海で見つけたビニールの人形に空気を入れるとそれは人間になり…。ポリ塩化ビニルでできた人「ポリ」のセリフ、「漂流してみるのも悪くなかった」「おすすめですよ、飛びこんでみるのも」が響く。時にはビニール人形に教えてもらうこともあるんだな。

 『ボクと彼女の、花』(演劇関係いすと校舎)。初演は2013年、今回で4回目の上演。花と共にいくつかのシーンを描きながら人の一生を見せる、割と壮大な話だ。花を踏みつぶす男子、花見で誰かと出会い、弟との初のご対面で花を摘む姉、花の水やりは「生きる上で大切なこと」--お父さんとお母さんの受粉、プロポーズに差し出す花、そして最後に花で送る最期。ストールを花にして渡すラストシーンと言い、繊細な作品だ。

 『セーラー服を脱がさないで』リーディング(作・劇団C4大福悟、演出・大猫座 大塚恵美子)。今年1月に他界した劇団C4の大福悟さんの過去作を、脚本が残っていない後半は記憶とメモを駆使して作ったリーディング公演。30年以上前の作品のようでさすがに時代を感じさせるが、パワフルで荒唐無稽。頬が緩む。

 『カムバック大福悟! 稀代の演劇人、故・大福悟の功績を振り返るトークイベント』。大福氏とかかわりの深かった、大塚恵美子(大猫座)谷瀬未紀(ピカラック)高木政則(タカキキカク)泊篤志(飛ぶ劇場)、守田慎之介(演劇関係いすと校舎)、児島誠(劇団C4)が並んで、大福氏について語るコーナー。わずか30分しかなかったが、彼が高校演劇で一世を風靡したことやその後の功績がよくわかった。私は大福氏と一度言葉を交わしたことがあるだけでほぼ面識がなく、彼のことを何も知らなかった。2022年11月、タカキキカクの一人芝居を、倒れんばかりの体調でやり遂げた話には絶句する。演劇と共に生きた人がいたこと、それを忘れないと言う人々がいること。無念だが北九州の演劇界に確かな足跡を残したのだと思う。大福悟さんのご冥福を祈りたい。

 『しまいのピクニック』リーディング(飛ぶ劇場)。再演。死んだ妹の幻影を作り出していた姉の話。うっすらと展開は予想できるが、見入ってしまう。屈託のない母親や明るい結末にホッとする。

 『劇場ができて20年! 何が変わったキタゲキ演劇 北九州の劇団代表が大集合! トークイベント』。出演は、大塚恵美子、高木政則、山口大器、泊篤志、守田慎之介、児島誠、渡辺明男(バカボンド座)、和田正人(劇団青春座)、有門正太郎(有門正太郎プレゼンツ)。

 40年近く芝居をやり続けている大塚、昭和20年に八幡で旗揚げして今年で78年目となる青春座(和田は4代目の代表だという)、飛ぶ劇場は36年目、劇団C4は24年目、演劇関係いすと校舎は23年目、有門正太郎プレゼンツは18年目。9年目の劇団(バカボンド座や劇団言魂)が短く感じられるほどの劇団歴ばかりで驚く。北九州演劇界の生き字引とすらいえそうな人たちが揃っているのだから(しかも9人も!)わずか30分で語るには無理がある。印象に残った話は、①公演する場所が出世魚的に大きな劇場へと移行する。てっぺんには北九州芸術劇場、若い人たちの目標がそのように変わった ②教育に演劇を持ち込むという講座を受講し個人的に勉強になった ③劇場ができて、プロが増えた。客が増えた。演劇をやっていることが特別ではなくなった。 ④劇場ができる前に、青春座の前の代表が市役所に掛け合って「箱を作るだけではだめだ」と主張、今の劇場の土台となっている ⑤表現をしたいと思っている人は実は多い。やりたいと思った時にこの劇場がサポートしてくれる などである。この20年の北九州芸術劇場についてはいずれまとめて考えてみたいと思っているが、劇団や演劇を長くやってきた彼らだからこそ、変化を肌で感じているのだろう、納得ができる話だった。それにしてもこの企画、時間が足りずもったいない。ほぼ、一人一回しか喋っていないような…。

 『小倉城ものがたり~細川忠興列伝~』(小倉城武将隊)。地元の役者たちによる歴史を芝居で披露する小倉城武将隊。全国に「おもてなし武将隊」という団体がいくつかあるらしく、北九州では昨年、結成されたという。賑やかしだけかと思ったが(失礼!)意外にしっかりと小倉にまつわる歴史を見せていく。明るく楽しくテンポよく、最後にこのパーンと弾けた作品で文化祭は締めくくりとなった。

クロージング

 最後は大ホールにて、皆で踊る。メモを取らなかったのでいくつの種類のオリジナルダンスを披露したかわからないが、北九州芸術劇場はこれまでに作ってきたオリジナルダンスの数とその「本気度×遊び心」に感心する。知っているだけでも以下のものがある。2013年、リバーウォーク北九州10周年の時に北九州芸術劇場と協働で制作したオリジナルダンスが「リバダン‼」。同2013年、夕暮れダンス化計画の「コクラバーナ」。2014年、スターフライヤー×北九州芸術劇場のオリジナルダンスは「そらダン」。2017年、北九州芸術劇場×到津の森公園×北九州市立響ホールの「どこをどうぶつる」。2020年、ギラヴァンツ北九州×北九州芸術劇場のダンスは「ギラダンス」。そして今年2023年は、北九州市立響ホール30周年+北九州芸術劇場20周年を記念して、公益財団法人北九州芸術文化振興財団のオリジナルダンス「財ダンス」を作ってしまったという。

 音に合わせて体を動かしていると、自然に笑顔になる。知らない人にも親近感が出て一体感が生まれる。そして耳と身体がこのオリジナルダンスを覚えてしまい、日常でもふとした時に口ずさんだり思わず踊ったり…気づくと劇場がとても身近な存在になっている。いいなぁ、すごいなぁ。私は、オリジナルダンスの試みをとても評価している。オリジナルダンスをプロに作って・・・・・・もらい、劇場スタッフ自ら・・・・・・・が踊り、市井の人々を巻き込んで・・・・・・・・踊り、劇場を飛び出して・・・・・・・・街中で踊り、「芸術をみんなで」楽しもうとしているからだ。オリジナルダンスという財産は、今回のような周年記念式典で様々な人と踊ることで、さらに人を巻き込みながら大切に受け継がれていくのだろう。

 キタゲキオープンデイズのフィナーレは『コクラバーナ』。バリー・マニロウの『コパカバーナ』をアレンジしたノリのいい楽曲だ。「ひじ、ひじ、おしり、おしり」の声が響き、舞台で思い思いに動き回りながら踊る人々。ああ、あの一員になれたらどんなに楽しいだろう!(阿波踊りに飛び入り参加して全国放送された過去を持つワタクシ、うずうずしてました)劇場の独りよがりの周年記念行事ではなく、関わってきた人々が共に祝っている姿に、感動を覚えた。

 愛されている劇場だとしみじみ思う。北九州芸術劇場、20周年、本当におめでとう。

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