インタビュー:博多活弁パラダイス実行委員会・上村里花さん

活弁とは

活弁とは、活動弁士の略で、無声映画を上映しながらその横で映画の内容を説明したりフィルムの中の俳優のセリフを代弁したりする人の事である。あるいは無声映画(活動写真)×弁士の組み合わせのことも指す。話芸が庶民の文化に定着していた日本ならではの独自文化らしい。2019年には成田凌主演の『カツベン!』(周防正行監督)が上映されたおかげで、その存在を知る人も少なくはないのではないか。今日は、福岡の地で活弁を堪能できる「博多活弁パラダイス」を開催し続けている実行委員会代表の上村里花さんに、開催のきっかけや活弁の魅力についてお話を伺った。

インタビュー

――13年前に本業(新聞記者)の取材で出かけた「キネマと音楽の夕べ」で、活弁、そして弁士の坂本頼光氏に出会い、衝撃を受けたそうですね。

上村里花さん

上村:出会いは2010年、仕事を通じてでした。当時、徳川夢声の出身地である島根県益田市に勤務していたのですが、そこにある島根県芸術文化センターグラントワで、「キネマと音楽の夕べ」と題するイベントがあり、取材しました。そこで初めて生で活弁を見たのがそもそもの始まりです。何しろ初めてだったので、面白いものがある!と強く興味をひかれました。当時から落語が大好きで、好きが高じて自分で地域寄席を始めてしまうぐらい入れ込んでいたので、落語に通じる「話芸」としての魅力にひかれたのだと思います。それから、その日、学芸員に誘われて、打ち上げもご一緒させていただいたのですが、その場で、頼光さんが、何と!自作アニメの「サザザさん」を活弁付きで上映してくれたのです。居酒屋のテレビとDVD再生機を借りて。観客はたった5人、私たちだけという贅沢さでした。「サザザさん」は某国民的アニメのブラックパロディのような作品で、絵のタッチは頼光さんが尊敬する水木しげるさん風!!全て頼光さんの手描きで、1作作るのに何ヶ月もかかるというシロモノ。頼光さんはこのアニメを一種の「飛び道具」として、お笑い芸人や噺家など他ジャンルの方とのイベントの際に上映し、活弁を知らないお客様にも人気を広げていました。サブカルファンの間では結構、有名な作品だと後で知りました。そんなアングラ感、サブカル感に強く興味をひかれ、当時、広島市内で定期的に開催していた(今も続けていますが)地域寄席「広島で生の落語を聴く会」にもお呼びするようになったのです。

坂本頼光弁士 

――落語と活弁の魅力、あるいは面白さに違いがあるのでしょうか?

上村:落語も活弁も、その魅力はやはり「ライブ芸」の部分だと思います。生で聴かないとその迫力、魅力は味わえない。その意味では、芝居とも通じるし、音楽のライブとも通じると思っています。だから、ライブの芸術(舞台にしろ、音楽にしろ)が好きな方にはきっと、この面白さは理解いただけると思っています。

 私は、ジャンルによる違いというのはあまり意識していません。落語も聴けば、講談も浪曲も聴く。その延長線上に活弁もありました。もちろんジャンルごとに違いはあるのですが、それはそれぞれの〝味〟ということで、私の中の唯一の基準は「面白いか否か」であり、「心震えるか否か」だけなのです。だから、広島の会では、落語がメインだけれど、講談もやれば、浪曲もやる、活弁もやれば、スタンダップコメディもやる、といった具合です。「話芸」という大きなくくりに入れば、あとは、ライブの芸として「心震えるか」「面白いか」だけで選んでいます。お客様は結構「落語は聴くけど、浪曲は嫌」とか、活弁の会には来ないとか、ありますが、私としては、面白ければいい!が基本スタンスです。ジャンルで狭くくくってしまうのはもったいないと思っています。

 活弁も落語も、いずれも語りで、その世界を膨らませられる、空間を創出できることが魅力だと思っています(活弁には映像がありますが、映画の魅力や世界を膨らませて観客に伝える意味では同じだと思っています)。

―― なるほど。それでも、自分で活弁ライブを開こうと動くなんて、よほどの衝撃だったと思います。何の作品だったか覚えていらっしゃいますか?

上村:実は作品は覚えていません。「活弁て面白いな!」と思ったことしか覚えていないのです……。記事は書いたので、調べたところ、上映作品は「子宝騒動」(1935年、斎藤寅次郎監督)と悲恋物語の「鳥辺山心中」(1928年、冬島泰三監督)でした。そもそも、活弁ライブを開くことは、私にとってそんなにハードルの高いことではなかったので……。つまり、既に2008年から広島市で地域寄席「広島で生の落語を聴く会」を始めていましたから、常に面白い芸人さんを探している状況で、「あ!面白い芸人さん見つけた!」ぐらいの感覚だったと思います。ちょうど仲介してくれる方もいたので、割とすぐに頼光さんをお招きして、広島での会の番外編として「活弁ナイト」というのをライブハウスで開催しました。さすがに、いきなり映画館や大きなホールでやるのは無理だと思ったので(落語会は通常、200人キャパのホールを借りて開催しています)、番外編として小さな会場で開催したのが始まりです。現在、福岡市を中心に定期的に活弁公演を開催している「博多活弁パラダイス実行委員会」を始めたのは、2020年ですから、活弁に出会ってから10年後のことです。そんなにすぐに始めたわけではないので、そこまで大変なことだという意識は私にはありません(笑)。

―― 2019年には映画『カツベン!』(周防正行監督)が上映されました。私も映画を見に行きましたが、映画の面白さもさることながら、「弁士」の存在がリアルに立ち上がってきて、弁士によって同じフィルムでも違う世界が見えてくるんだろうなと興味深く思いました。ちょうどその年に福岡に赴任なさったそうですね。

上村:映画「カツベン!」は、福岡での「博多活弁パラダイス実行委員会」を始める大きなきっかけの一つです。この映画によって「活動写真弁士」「活弁」という言葉や存在が、少しは世間に認知されたのは確かで、その土台があって初めて、活弁だけの会を始める踏ん切りがつきました。それが無ければ、活弁だけの会をやるというのは、集客の意味で難しく、さすがに私も踏み出さなかったと思います。

 また、「弁士によって同じフィルムでも違う世界が見えてくる」というのは全くその通りで、私が今、活弁の会「博多活弁パラダイス」をやっているのも、それがあるからだと思います。つまり、落語や講談、浪曲といった演芸、話芸に通じるところがあるからです。落語も、古典などは同じ噺なのに噺家によって味わいが変わってきますよね?また、同じ噺でも落語ファンは飽きずに毎回聴いている、活弁もそれに通じるところがある!と思います。

 登場人物の捉え方によっても台本は変わってきますから、弁士によって味わいも変わります。私が経験した例で言えば、「御誂治吉格子」を坂本頼光さん、大森くみこさん、それぞれの活弁で別の日に観たのですが、同じ映画なのに味わいが全く違い、驚きました。どちらも素晴らしかったのですが、頼光さんの活弁では、主役を演じる大河内傳次郎演じる治郎吉がかっこよく、大森さんの活弁では、治郎吉の相手役の女性の悲哀がより胸に迫り、「治郎吉ひどい!」と思ったり(笑)。そんな違いがあり、同じ映画なのにここまで味わいが変わるのか!と感じ入った記憶があります。

 活弁の台本は弁士それぞれが自分で書きます。同じ映画でも弁士によって台本は違います。もちろん、物語を勝手に変える訳にはいきませんから、ストーリーは同じですし、セリフも字幕で出たりしますから、セリフも大きく違う訳ではありません。でも、同じセリフでも言うタイミングや口調、語尾など、ちょっとした差が味わいの違いになります。また、情景説明などはまさに弁士それぞれのセンスや映画理解が問われます。これも、どの場面で説明を入れるか、入れないかなども弁士によって違います。映画というのは、映像が主役ですから、弁士がそれを邪魔することがあってはいけない、というのが、今のプロの弁士の共通認識、大前提になっています。ですから、時には語らずに映像に語らせる。そして、観客がより映画の世界に没入できるように補助線を引くかのように情景説明を入れていく。その際の情景説明の文章も弁士が考える訳ですから、そこでも弁士の個性が出ます。皆さんよく勉強していて、本もよく読まれています。例えば、情景説明や心情説明の際、さりげなく詩や和歌を入れたりすることもあります。それは日ごろから弁士が本を読んだり芝居を観たりする中で、常にアンテナを張り、「これぞ!」と思ったセリフや詩などは書きとめておくのだそうです。それを一部、情景説明や心情説明に取り入れるのだと聞いたことがあります。また、「時代劇には七五調の方が引き締まる」と情景説明の部分を七五調で書いたり、和歌などを援用したり。弁士はそうした工夫を凝らしながら、いかに映画の世界観を観客に伝えるかに心を砕いており、作品理解の深さが台本にも現れます。そういった意味で、奥の深い芸だと思います。

―― 2020年12月、第一回博多活弁パラダイスを開催。映画『カツベン』によって少しは認知された…とおっしゃいますが、定員100名のところキャンセル待ちまで出たとは驚きです。失礼ながらまだまだマイナーかと思っていたのですが…。上村さんの宣伝も上手だったのでしょうが、元から活弁に興味があるお客様がいらっしゃったということでしょうか。落語をはじめとする話芸に関心のある方が多いとか…?

上村:初回になぜ、あれだけのお客様に集まっていただけたのか、は正直分かりませんし、挙げていただいた要因それぞれが絡み合った結果だと思います。一つ言えるのは、坂本頼光さんの存在です。頼光さんは、以前からサブカルファン、演芸ファンの間では有名な存在でしたので(噺家やお笑いなど異業種の方とのコラボを積極的に開催し、自作アニメ「サザザさん」で注目されたり、寄席に出たりしていたので)、その頼光さんが福岡で生で見られる!ということで集まった方は多かったと思います。あとは、コロナ禍で皆さん、こうしたイベントに飢えていたのもあったかもしれません。活弁はもちろん?今でもまだまだマイナーな芸能ですから、とにかくいかに「活弁」を知っていただくか、足を運んでいただくか、に常に心を砕いています。一度、体験していただければ、その面白さは伝わると信じていますが、まずは会場にいかに足を運んでいただくかが、今も、これからも大きな課題です。

――その後は、3,4カ月に一度の割合で開催し、色んな弁士を招いていらっしゃいますね。

坂本頼光弁士(左)と片岡一郎弁士 
第七回は 坂本頼光弁士と片岡一郎弁士人会の二人会。Tシャツまで作った

上村:広く興味を持っていただくために、生伴奏付きの公演や時代劇研究家をトークゲストに招くなどの企画をしつつ、合間に番外編として、映画について縦横に語ってもらう「居島一平シネ漫談」や、片岡一郎弁士による徳川夢声の短編小説の朗読会なども開催しています。また、これからは、ファン層を広げるために、落語や講談、浪曲などの他ジャンルとのコラボ公演も実施していく予定です。もともと私は落語を中心とした演芸イベントの企画・運営を広島で2008年からずっとやってきているので、演芸の芸人さんにはお声をかけやすいので、何かテーマを決めて、他ジャンルの方との二人会などもやっていきたいと思っています。例えば、浪曲師の玉川太福さんは映画「男はつらいよ」シリーズは松竹と山田洋次監督の許可を得て、浪曲化しているので、映画という切り口で、このお二人の会を開催するなど、企画はいろいろと考えています。居島一平さんのシネ漫談も昨年末から始め、5月に2回目を開催、12月にも第3回の開催(12月は小津安二郎特集!)も決まっています。さらに、居島さんと頼光さんとの映画トークなども計画にはあります。

―― 生伴奏付きというのも、面白いです。津軽三味線やギター&フルート、ピアノ、など音の違いが活弁の雰囲気を変えますね。活弁士のリクエストなんですか? 上演演目に合わせた楽器にしているのでしょうか。

上村:実は、生伴奏付きは特別なことではなく、活弁本来のスタイルです。無声映画時代は映画館に専属の弁士が居たのと同様、専属の楽士、楽団がいました。和楽器(三味線など)が中心だったと思いますが、洋楽器もあったようです。おっしゃる通り、演奏楽器、演奏者によって雰囲気が変わるので、楽士や楽器の選択も重要ですし、逆に言えば、これらの組み合わせにより、さらに楽しみの幅は広がります。さまざまな可能性のある芸能だと思います。ただ、予算が潤沢にあるわけではないので、残念ながら、トークゲストをお招きした回には、楽士はお呼びできなかったりといったことはあります。また、楽士も1人ではなく、複数の楽団を招ければもっと楽しいとは思いますが、なかなか先立つものが……(笑)。

左から、大森くみこ弁士・上村里花さん・天宮遥さん(ピアノ)

 楽士を呼ぶ場合の選択の要素は、おっしゃる通り、上映作品や弁士との相性などが大きな要素となります。無声映画の伴奏というのは楽譜が無く(演奏者が自ら作る)、かつ、映画(映像)と弁士に合わせる必要があるので、その要素は非常に大きいです。つまり、必ずしも演奏のプロであっても、誰もができるという訳ではありません。即興性、センス、映画の理解、弁士と映像に合わせる技術などなどが重要になってきます。自身の演奏を主に考える方では成り立ちません。ですので、基本は、上映作品とともに、弁士がやりやすい楽士の方を紹介していただいています。7月2日の三味線伴奏の広沢美舟さんも、弁士である頼光さんのご指名です。上映作品が時代劇ですから、三味線が合うということと共に、美舟さんは浪曲三味線の方なので、普段から楽譜が無い状況で、浪曲師に合わせて、即興で弾くことを生業としており、センスも抜群で、売れっ子の曲師です。なので、弁士としては大変やりやすいし、安心して任せられる、とのことです。私も、美舟さんは浪曲でよく聴いていて、その素晴らしい演奏のファンですので、この2人の組み合わせは主催者ながらワクワクしています。

―― フィルムも多種多様ですね。阪妻(阪東妻三郎)や片岡千恵蔵などある一方で、戦前のアニメーションだったり国策の宣伝映像だったり。ずっと見たかった『月世界旅行』(ジョルジュ・メリエス監督)の作品を活弁と共に見られるのは感激でした。演目は弁士にお任せですか? 

上村:演目は基本的に弁士にお任せしています。こちらは、大まかな希望を出すだけです。今年は「観客の皆さんに無声映画をより深く楽しんでいただくため、毎回、テーマを決めてやりたい」との注文を弁士には出しています。弁士に任せるのは、一つは私がそれほど無声映画に詳しくないということ、そして、大きいのは、観たい作品でもフィルムが残っていなければ、また、残っていても上映できる状態になければ、あるいは、作品が借りられなければ上映できないからで、そうしたいわば業界の事情は私では分からないので、弁士に候補を出してもらい、それに対して私が注文をつけ、最終決定する感じです。また、ご存じのように、活弁の台本は弁士1人1人が書くので、そもそもその弁士がやれない映画だったら無理だからです。つまり、作品がDVDで上映可能な状態で、予算内で借りられ、かつ、出演弁士がその映画を説明できる、といった条件が揃わないとやれないので、基本的には弁士に「洋画がいい」「時代劇がいい」など大まかな希望を出し、候補作を挙げてもらいながら決めていく感じです。

―― 公演によっては時代劇の研究者や歴史家による解説もありますね。とても興味深いです。また、活パラに行く前は、扱う映画を「古い映画」だと雑に捉えていたのですが、カメラワークが斬新で驚いたりアニメーションでも表現が独創的だったりと、新しい発見も多いですね。弁士の魅力だけでなく、そういった作品の面白さに新たに気づけるのも私には魅力です。

上村:そうですね。今年からテーマを設けたのもそのためですし、楽士を呼ぶことを断念しても敢えてトークゲストをお呼びしているのも、そのためです。

最初のとっかかりとしては、弁士と楽士による「ライブ」の芸を楽しんでいただく、体験いただき、映画を立体的にライブとして楽しんでいただきたいですが、その次の段階として、やはり無声映画、映画そのものにも興味を持ってもらえればと思っています。これまでもトークゲストに春日太一さんをお招きしたり、番外編として片岡さん、春日さんのトークライブを開催したりしていたのもそのためですが、今年は、それをより鮮明に打ち出し、無声映画の世界を深掘りできるように、毎回、テーマを決めて上映作品を選んでいただいています。その都度、映画史的な位置づけを解説することで、これまでバラバラに観ていた無声映画の世界を少しずつ体系化し、関連づけて観ていただけたら、よりその奥深い世界を楽しんでいただけるのでは、と思っています。7/2の「大河内傳次郎特集」などもその一環です。

―― では最後に、このインタビューを読む、活弁未経験の人に、お誘いの文句を!

上村:活弁は決して古いものではなく、現代の私たちにとっては、全く新しいエンターテインメントです!「映画なのにライブ」の新感覚をぜひ一度、体験してください!!

今回は、人気、実力共に現在の活弁界を牽引する弁士・坂本頼光と、浪曲三味線界のホープ、超売れっ子の広沢美舟という2人の天才による競演、セッションです!さらに、そのセッションの舞台となるのが、無声映画時代の名匠・伊藤大輔監督作品で、福岡県豊前市が生んだ時代劇の大スタア、大河内傳次郎主演の名作「忠次旅日記」という豪華さ! 第10回記念公演にふさわしい豪華公演ですので、ぜひ、初めての方からファンの方まで、最高のセッションを会場で体験ください。きっと新しい世界が開けます。ご来場お待ちしています!

タイトルとURLをコピーしました