あの『西遊記』が舞台になる!
一世を風靡したあの名作が、日本テレビ開局70年を記念して舞台となって帰ってくる!
知らない若い人のために書いておくと、『西遊記』は16世紀の明の時代に書かれた中国の小説。1970年代に堺正章主演でテレビドラマが作られ大ヒットした。使用されたゴダイゴの歌も同様に大ヒット。ある年代以上はすぐに、あのメロディを口ずさめてしまう程に人気を博した作品だ。
内容は、石から生まれた猿・孫悟空が、その身を助けてくれた三蔵法師というお坊さんのボディーガードとして天竺(インド)まで行く話。孫悟空のほかに豚の妖怪「猪八戒」と河童(に見えるけど、イルカという説もある)の妖怪「沙悟浄」も一緒だ。行く先々でいろんなバケモノが出てきて、その度に知恵と妖術を駆使して長い旅路を歩んでいく…というものだ。
この孫悟空がなかなかの乱暴者で短気。そのためのコントロールとして、頭に緊箍呪という輪っかをはめられ悟空が問題を起こせば輪っかがキリキリと絞まる(悲鳴を上げる孫悟空!)。彼は筋斗雲と呼ばれる雲に乗って軽々と移動するし、手には如意棒という伸縮自在の重くて殺傷力の高い棒を持っている。とまぁ、不思議な小道具もわんさか出てくるし、バケモノたちも面白い妖術を使うし、楽しめるポイントがたくさんなのが『西遊記』というわけだ。
さて今回の舞台、キャストがとんでもなく豪華(下記のキャスト表をご覧いただきたい)。博多座で11月から始まる公演に先駆けて、演出の堤幸彦と孫悟空役の片岡愛之助が揃う記者会見で意気込みを聞いてきた。
演出:堤 幸彦
出演:片岡愛之助・小池徹平・戸次重幸・加藤和樹・村井良大・藤岡真威人・中山美穂・松平健 ほか
公演場所:博多座(ほか、大阪・名古屋・東京)
公演日時:2023年11月10日~11月23日(博多座のみの日程)
記者会見
――まずは一言ずつお願いします。
堤:はい。博多座様にはいろいろ過去からお世話になっておりまして、本当に楽しみなんですね。もちろん東京も大阪も名古屋もさまざまな場所でお芝居をやることは本当に楽しみなのですが、とりわけ九州の地におきましては、わたくしの両親が大分出身でございまして、血が通っているようで、強い親近感を覚えましてですね。特に過去作において九州にまつわることも多く扱ってまいりましたので、博多において公演ができるのは本当に喜ばしく、一方的に親近感を覚えてますので、ぜひ頑張らせていただきたいと思っております。
愛之助:皆さま、本日はお忙しい中、こんなにたくさんお集まりくださいましてありがとうございます。この度、西遊記の孫悟空役を務めさせていただくことになりました。孫悟空と言いますと、やはりわたくしの中では堺正章さんです。小学校の頃、毎週放送を楽しみにしておりました。それをこのような形で舞台となり、そしてあの堤監督に演出していただき、豪華なキャスト、そして大スペクタクルという内容で、今から非常に楽しみにいたしておりますので、どうぞよろしくお願いたします。
――愛之助さん、孫悟空の衣裳を着た時の率直なお気持ちを。
愛之助:撮影する日までどのような衣裳なのか知りませんでした。
堤:めちゃくちゃ似合ってますよね。
愛之助:本当ですか? ありがとうございます。なんか、あの堺(正章)さんのなさってたものに色合いが近く、オマージュを感じられる悟空が完成したのかなと思いました。
――作品の概要をお話いただける範囲で結構ですので、少しご説明いただけますか。
堤:皆さんご存知の西遊記であります。あの石ざるがボンと生まれて、妖怪の仲間と諍いながらも友情を育み、三蔵法師と共に旅をする。人間の業の深さみたいなところを含めて、色んな要素のあるストーリーにしようと思っています。大きく二幕ものだと思います。一幕はやはり出会いと、それから一体何が敵なのか。当然、松平(健)さん・中山(美穂)さんを筆頭にした何か悪の帝国みたいなものがあるんでしょうか、そこと対峙して大変な危機を迎える。そして二幕においては、奇想天外な解決方法で戦っていくと。あまり悪い人を出したくない思いもあります。なぜ妖怪になったのかとか、なぜ悪の帝国なのかとか、そういうこともしっかり解決する人間ドラマにして行きたいというふうに思っております。
愛之助:今の時代は舞台映像だとたくさんCGなどでできるわけなのですが、舞台で生身の人間が演じることはやはり限られてくると思います。ですが、堤監督の舞台はまた特別でございまして、この不可能だと思っていることを何でも可能にしてくださるのが堤監督だと思います。まず悟空と言えば、筋斗雲ですからね。筋斗雲はどうするのかなと思って。でも乗らなきゃ話になりませんからね。
堤:解決法は見出しております。
愛之助:そうですか! あとは分身の術とか…
堤:分身はもう任せてください。
愛之助:そうですか‼ めちゃくちゃ嬉しいですね(笑)。
堤:若干、如意棒がいろいろ制約があるかもしれませんけども。
愛之助:そうですよね(笑)。最近ずっとそのことばかり考えてますね。どうなるのだろうな、なんて。
――キャスティングについてお尋ねします。三蔵法師の小池徹平さんとはこれまで共演などはございましたか。
愛之助:小池さんとは初めてです。舞台は拝見しておりますけど、本当に美しいです。三蔵法師にぴったりだと思います。
堤:そうですよね。頭を剃ってもらわないとね(笑)。
愛之助:いやいやいや(笑)、厳しいですね、これ、僕は言ってませんよ(笑)。
――猪八戒は戸次重幸さん。河童のイメージが強いのですが。
愛之助:このキャスティングはどうしてなんですか?
堤:まあやっぱり意外なキャスティングじゃないとおもしろくないですよね。
愛之助:なるほど。
堤:戸次さんは、とにかく器用だし。難しいテーマを与えれば与えるほど、追い込まれれば追い込まれる程、面白いという。本当に名優なので。
――沙悟浄は加藤和樹さんです。
愛之助:かっこいいですね。
堤:加藤さんは同じ愛知出身なんです。…みんなよく見るとね。帝劇含め、いろんな舞台を満員にする方々ばっかりですから。
愛之助:そうですね、心強い方ばかりですね。
堤:成功するしかないですよね。
愛之助:成功するしかない(笑)。
――舞台装置はどういったものを想定されていますか。
堤:まず一つは、ここ最近の舞台装置というのは想像を超えたさまざまなテクノロジーが集まってきてます。特にLED技術の研究はこの数年ますます精度が上がってます。
江戸時代から始まる歌舞伎の中には、舞台上の驚かしみたいなことのすべてが詰まっているので、そういった舞台の知恵がすべて詰まった技を、最新テクノロジーとうまくミックスして、1分たりとも飽きさせない舞台の連続、面白味の連続にして行きたいというふうに思っています。
日本テレビ開局70年記念舞台ですから、どうしても堺正章さんのドラマバージョンを想起しがちだし、私もそこで育ってきた一員ではありますが、今回は最新テクノロジーと肉体の技がぶつかり合う舞台にしたいと思っています。
――愛之助さんは、体を動かす孫悟空を演じるにあたってこういう事をやってみたいというのはありますか。
愛之助:堺正章さんの孫悟空で育ってきましたし、スーパーマンと同じような感じです。やはり今回このお役をやらせて頂くにあたりまして、お客様が「愛之助の孫悟空だな」と思っていただければいいなと思っています。みんなでお稽古にぶつかり合いながら、そして監督に指導していただきながら、作り上げていきたいなと思ってます。
――愛之助さん、博多座の魅力は?
愛之助:これは歌舞伎界のみならず、役者さんは皆さん、博多座って出たいなって思われることです。まず博多は食べ物が美味しいじゃないですか。それと、やはりお客様が温かいと感じます。もちろん、その東京が冷たいとかではなく、個人的な感想なのですけど、西へ来れば来るほどお客様が熱いっていうのでしょうか。それともこの劇場の持つ雰囲気なのかもしれませんが、この博多座特有の熱量があります。
堤:ありますよね。
――『西遊記』といえば、印象的なのがゴダイゴの主題歌だと思うんですけれど、舞台での音楽はテーマになるようなものを作られる予定ですか。
堤:いい質問ですね。もちろん考えています。ミュージカルではないですけども、達者な人々ばかりなので、皆さんに歌っていただきたい気持ちはあります。松平さんいるととんでもないことになりそうな気配もちょっとありますけれども(笑)、数曲用意してます。ゴダイゴの曲はものすごい印象的なので、もちろん使いたい。でもうまく使わないと負けてしまう思いはあります。これは国民みんなが知る企画なので、やっぱりそこは期待に応えるべく、準備をしております。
取材を終えて
始終和やかな雰囲気での記者会見。会見中にも話題になったが、『西遊記』に出てくる小道具は、見る者には奇想天外で面白いんだけど(自分の毛を抜いてそれが自分の分身になるなんて、一度見ちゃったらそれ以外の分身のやり方なんて想像つかなくなっちゃう!)映像ならともかく、さてこれを舞台でやるとなったらどうするのか。堤監督があの手この手の秘策で観客を騙してくれるのだろうと思うと、ギミックも楽しみとなりそうだ。
個人的には、愛之助さんの悟空は「憎めないヤツ」になりそうだなと思う。どんなに乱暴者で迷惑をかけたとしても、周りはため息をつきながら「あいつだから仕方ないか」と思わせてしまうような、やんちゃないたずら小僧のような悟空。愛之助さんにはそんな悟空が似合ってるなぁ、なんて…。
記者会見の後は、ずっと頭の中でゴダイゴの曲がリフレインしている。それを消して、新たな『西遊記』が楽しめる11月を待つことにしよう。いや、それまでは気分を盛り上げるために歌っていてもいいのかしら…??