甘棠館show劇場プロデュース2025『滑落、我ら大八食産登山部』制作発表

*甘棠館show劇場は今年で設立25周年だそうだ。その節目に、「演劇を演劇人で創るという当たり前のことを企画いたします」という一文が届いた。ん? どういうこと?

 企画意図を読んでみる。モデル・タレント・アイドル・芸人らが出演するプロデュース公演ではなく、「演劇」に軸足を置いて活動をしてきた者たちだけで芝居を作ろうということらしい。確かにここ数年、アイドルやモデルによる演劇が増えてきた印象がある。ふむ。「北九州の演劇文化をけん引してきた飛ぶ劇場の泊篤志が脚本を、全国に向けて作品を発信している万能グローブガラパゴスダイナモスの川口大樹が演出を、そして演劇に軸足を置いて活動してきた40歳以上またはキャリア15年以上の実力あるキャストに出演」してもらって… 演劇人の手によるTHE演劇  を作るんだという! 泊×川口という組み合わせも珍しいし、40歳以上のキャストばっかりというのも興味深い。

*というわけで制作発表会に出向いたのだが、甘棠館の中に入ってみると舞台にデーンと大きなテントがあった…。そこで本作のタイトルを思い出す。『滑落、我ら大八食産登山部』、登山のお話でしたね(笑)。…と、気づくと司会進行の仲谷一志さんも、登場した方々も全員、山登りの格好である…! 山頂での稽古とか、山登り合宿とかするのかなぁなんて考えている内に、制作発表が始まった。

仲谷一志さん(劇団ショーマンシップ)

仲谷:甘棠館小劇場代表、今回の制作を担当します仲谷一志です。座組が顔を合わせるのは今日が初めてです。40歳以上、あるいは15年以上演劇に軸足を置いて活動してきたキャスト・スタッフで芝居を作ります。おかげさまで甘棠館は年内の週末はすべて埋まっています。ただお笑いのライブ、プロダクションさんがモデルさんタレントさん芸人さんをプロデュースしてお芝居をする公演が多い。劇場としてはそれも嬉しいが、劇団活動をしてきた私としてはちょっと寂しい。そんな話を昨年、泊さんにして、その翌日に川口君に電話して、この企画がスタートしました。ではご紹介します、脚本担当の泊篤志。

泊篤志さん(飛ぶ劇場の代表・作・演出家)

泊:仲谷さんになぜか好かれているみたいで、20周年の時にも呼ばれて、節目節目で呼ばれる。仲谷さんの方から40歳以上のキャストでやりたいと言われて。僕も40歳を過ぎたら健康診断で数値が乱れ始めて体にいいことをしようと思って山登りを始めたんです。今回お話をいただいた時に、40歳になって以降自分が考えた「生き方を変えてみよう」とかを、オーバー40の皆さんがモヤモヤしている芝居ができないかなと思って台本を書いています。楽しくなると思うんでよろしくお願いします。

仲谷:泊さんの事が大好きなんです。続きまして、演出担当の川口大樹。

川口大樹さん(万能グローブガラパゴスダイナモスの作・演出家)

川口:僕も仲谷さんには節目で…割と好かれているというか。僕が初めて長編の脚本を書いて演出したのがこの甘棠館で、10周年とか20周年も役者だったり脚本で呼んでいただいたり、今回初めて人の脚本で演出するという形で呼んでいただいて、いろんなプロセスを仲谷さんと辿って来たんだなとそれが感慨深いなと思っています。今回、キャスト陣がほぼ全員僕より年上で、自分より下がいない現場は初めてで。芝居はもう皆さんお上手なので僕がやることは本当に健康管理ぐらいだろうと思っています。

泊:(キャストのみなさんが)セリフが覚えられないらしいです。

川口:そう、楽屋でずっとセリフが覚えられないって(笑)上手なカンペの仕込み方とかそういう提案に終始するかもしれませんが(笑)、健康で千秋楽を迎えられるようにしたいと思います。よろしくお願いします。

仲谷:言いたくないんですけど、川口君も大好きなんですよ。客席で見ていて悔しいなと思う劇団の一つなので今回一緒に作ってみたいということで、この二人から始まって、今から紹介するキャストも1人ひとり声をかけました。今回はスタッフもキャストも演劇に軸足を置いて活動してきた皆さまです。

鶴賀皇史朗:山を登ったことが全くなくて…。僕の想像する山のぼり(の格好)は…これです。山登りについて深く勉強しようと思っています。

鶴賀皇史朗さん(パブリックチャンネル)

緒方裕子:地元の劇団道化で長くお芝居をやっていました。仲谷さんから連絡をいただいた時に、見に来てほしいってお願いじゃないんだろうなってびっくりしたんですね。信じられなくてずっと電話の間ほっぺたをつねっていたんですけど、あまり強くつねっていたので翌日痛かったんです(笑)。それだけ憧れの夢の舞台にみなさんと立てることを誇りに思っています。

緒方裕子さん(劇団道化)

椎木樹人:普段はうちの劇団も割と若い子が増えてきて最年長ということも増えてきたんですが、今回は東沙耶香と並んで最年少ということで、新鮮な気持ちでここに立っています。先輩方は僕が10代の頃からかわいがってもらったり…いろんな事されたり(笑)してきた素敵な先輩ばかりで、夢のようだと思っております。しっかり若さを前面に出して皆さんを引っ張って行けたらなと思っております。

椎木樹人さん(万能グローブガラパゴスダイナモス)
小渕友加里さん

小渕友加里:私は劇団テアトルハカタの仲谷さんの先輩にあたります。最近はどちらかというとプロデュースをする側、教える側が多いので自分がこうやってステージに立つのは久しぶりでドキドキしています。山の格好も全然できてなくって、家中のリュックサックを探したらこれしかありませんでした(振り返りリュックを見せて)非常持ち出し袋。なのでみなさんと一緒にしっかりこの夏の公演という山を登りきるのが目標でございます。

山下晶さん(imagina-l)

山下晶:ぼくも泊さんと川口さんと負けず劣らず仲谷さんから好かれてるんじゃないかと思っております。過去に何回かお誘いをうけたんですが、その時たまたま都合がつかず、これ次断ったら絶対もう仲谷さんとの仲は裂けるだろうなと思い、今回は二つ返事で「出ます」とお受けいたしました。仲谷さんは今回プロデュースという形で一緒に舞台に立つことはないんですが、それでも今までの想いを一身に背負って頑張っていきたいともいます。

上田裕子さん

上田裕子:私はギンギラ太陽’sという被り物をする劇団で長いこと活動をさせていただいておりまして、なかなか人間の役をすることがないので、生身の人間の役をやらせていただくのが5年振りでとてもワクワクしております。みなさんと一緒に素敵な舞台を作って私も皆さんに刺激を受けて成長できたらなと思っております。

岡本ヒロミツさん

岡本ヒロミツ:仲谷さんじゃないと集まらないメンバー、企画だと思っているんで、二つ返事で参加させてもらいました。僕は台本が全然覚えることができます。そして皇史朗が言っていたのを楽屋で聴いたんですけど、皆さんの頭上にありますパイプにカンペが貼りやすいと。本番の時にはどうぞ舞台の上をチェックしていただければと思います。

原岡李絵子さん

原岡梨絵子:今回プロデューサーを務めている仲谷座長と同じ劇団で、私は好かれてないと思うんですけれど(笑)。この作品は企画から出てみたいなということで古株の権力をフルに使って出演していただきたいですということで今この場に立たせてもらっています。甘棠館はすごく臨場感のある劇場ですので、山を登っているシーンがるのか、山頂にたどりつけるのか、お客さまも一緒に私たちが登る過程を最後まで降りきれるのかという所までハラハラしながらご覧いただけると思うんですね。台本読んでほんとにこれからどうなっていくんだろうという展開が私たち演者も本当に楽しみです。それから先日、先行販売を行って頂いたんですけれど、公演の1回分ぐらいはもう埋まっているという状況で、皆さんすごく興味を持って頂いているんだなと。今回は同年代や先輩の方々の胸を借りて、稽古場からフル回転で今回はいろいろ暴れまわりたいなと。それがどこまで許されるのかというのも稽古場で試していきたいなと思っています。

仲谷:ここからミニ対談です。作家の泊さんと演出の川口さんに「劇団×演劇」というテーマで退団していただきます。

泊:20周年おめでとうございます。

川口:ありがとうございます。あっという間ですね。2005年に旗揚げなので。

泊:うちが間もなく40周年なので。

川口:泊さんは途中から代表に。

泊:そうです。飛ぶ劇場という劇団は、北九州の大学演劇の4回生が次々参加していくという劇団だったんですよ。サークルだと3年で終わりなんで4年になったら参加する劇団。なので僕も4回生の時に参加して、一回東京に出て、戻ってきて劇団を継いだ。だから僕は5代目の代表なんですよ。僕が代表になって今年30年です。劇団何人いる?

川口:15.6?

泊:飛ぶ劇場は16です。最近はみんな劇団を作らないじゃないですか。

川口:ユニットみたいな、プロデュースみたいな。今の時代は流行らないのかなと思いますね。

泊:川口的に(作品において)何人が適正?

川口:僕は8~9人が書きやすい。出るからには一人一人見せ場があった方がいいなと思うし。

泊:ちっちゃい役でもちゃんと背景作ってあげるやん。優しいなぁと思って。僕はあれやめましたから。お客さん、想像してって。だって長くなるもん。

川口:そう、それも悩みです。増えれば増えるほど長くなる。

泊:今回も主役みたいな人ばっかだから、みんなある程度ちゃんと書かなきゃって

川口:泊さんがみんなに書く前にアンケートを取ったんですよね。

泊:会った事ない人もいるから。それで人となりを。でもセリフ覚えがいいとか悪いとかの情報はない(笑)。とりあえず今回みんなずっと出てるみたいなことにしようと思ってて。

川口:ほぼでずっぱりですよね。

泊:いい人した人たちがずっとヒーヒー言ってるのを作りたいと。割と作りにくいことをしてやろうと(笑)。

川口:ほんとみんなずーっと喋ってますもんね。会話劇と言うか。

泊:劇団の話をしようか。劇団のいい所は何ですか。

川口:好きなことをやれるということじゃないですか。遠慮せずにダイレクトにやりたいことが共有できるというのは劇団ならではのことだと思いますね。

泊:そろそろ今頃、来年のことを考えなきゃなぁってことだと思いますけど、自分発信?

川口:基本僕が。大枠こんなことがやりたいと言って、そこからけっこう劇団員に話したりします。その時間が長い。この前、運動会をやりたくないという芝居をやったんですけど、「運動会の思い出ある?」ってきいてエピソードをそのまま台本に入れました。僕の劇団は集まることが多いので。週1絶対集まる。今日もこの後集まります。

泊:飛ぶ劇場はほぼほぼ集まらない。うちはだいぶ(メンバーが)大人なんで。家族持ちも多いし。

川口:僕らは(劇団員が)若いんで。僕と椎木がぐっと離れてて、20代が7割ぐらい。

泊:うちは主流メンバーが50前後ですからね。20年いる人が何人かいるからね。

川口:僕が20代から(飛ぶ劇場を)見てますもん。

泊:台本の字が小さいとか言われますから。

川口:うちでは聞かない言葉ですね。

泊:この前、下手からチリンチリンと喫茶店の音が鳴ったら登場するというシーンで、うちの葉山がその音が聞こえないんですよ(笑)。みんな聞こえるのに聞こえないの君だけだよって。チリンチリンと鳴ったら誰かが彼の肩を押すという(笑)。

仲谷:すみません、話題が高齢化になってます…(笑)

泊:僕は57歳なんですけど、劇団代表になって30年、この年になるといつまで続けるのかと。

川口:確かに終わる理由がない限りは…続いていくと言えば続いていく。

泊:そしてほぼほぼずっと毎年何かやってるので。やらない年がないんですよ。2年後に40周年なんですよ。だから40周年まではちゃんとやって、翌年僕が60歳になってしまうのでその年は休もうかなと。劇団って辞め時が難しいじゃないですか。川口君と椎木くんががちがちのケンカをしたら解散になるかな。

椎木:何回もしているから。

泊:やめるって言ったら? 代表、椎木だよね。(川口に)代表やる?

川口:メンバー次第ですね、みんながやりたいと言ったら。

泊:代表はイヤじゃないですか。荷が重いなと思って劇団員に副代表やらないかと言ったら全員嫌だって。そんなもんですよ。

川口:うちは代表が椎木で僕は作・演出だから。

泊:よっぽどじゃない限りは作演出と代表は一緒じゃない方がいい。

川口:うちは椎木が立ち上げたんですよ(だから代表)。言い出しっぺ。僕は後から誘われてやろうと参加したから。あと演劇部時代、椎木が部長だったから。

泊:でも飛ぶ劇場は僕が作ったわけじゃないから。(僕は)やりたい感じに見えないじゃないですか。そうでもなければ代表やってないから。

川口:そっちの方が長続きするのかも。

仲谷:では、やる気がない人の方が長続きするという着地点で…(笑)

川口:情熱の部分は椎木がやってくれているので。

泊:やる気元気椎木ってね。

*そのほか寺田剛史(飛ぶ劇場)と東沙耶香(劇団ショーマンシップ)もキャストだが、本日は欠席

Q「飛ぶ劇場さんもガラパさんもタイプが違う、魅力が違う。二人の魅力をお互いに」

泊:川口君って意外と基礎がちゃんとしてるんですよ。一緒に高校演劇の審査員とかやったことが何回かあるんですけど、ちゃんとしたこと言うなぁって。エンタメをやってるとは思うんですけど、ちゃんとした人って言うイメージです。全員出ずっぱりなんですけど、ガラパって割と大人数が出てきてわいわいやっているイメージなので集団芸をまとめるのがお上手かなと思ってます。

川口:泊さんのおもしろい所は、脚本が気持ち悪いんですよね。気持ち悪さって言うのがホラーとか、言語化しづらい何とも言えない人の微妙に嫌な感じを作品の中に潜り込ませるのが巧みだなと思っていて、それが自分にはできないことだから。今回もそこを楽しみにしてます。

Q「二人とも作・演出されてますけど、今回はどちらかだけ。気持ちは?」

泊:そう、今回は僕が演出しないので丁寧に脚本を書いてます。稽古場に入って自分がなんとかすればいいやってことが、今回は僕は稽古場に行かないから。ト書き書いておこうかなとか。ト書きの中でここは演出さんお願いしますとか書いてます。好きにしていいよっていう指定を書いてます。

川口:僕も演出だけということはないんですけど、普段苦労するのは本の方なので、それがないのは気が楽です。役者陣がこの顔ぶれですから、僕が何にもしなくても勝手に面白くなっていくだろうと思ってますから。せっかくですからこのメンバーとやることを楽しんでいこうかなと思っています。

Q「仲谷さんから話があって実力派の皆さんなんですが、福岡の演劇界の現状や感じていることを」

川口:ちょっと前まで若い世代、僕らの下の代があんまりいない感じでしたけど、最近、学生演劇祭があってそこからユニットとか団体とかが出てきて。それと先輩の「劇団風三等星」さんとかが以前より活発に活動していて、コロナ以降ちょっと落ち込んでいた演劇界なんですけど、ちょっとずつ新しい風が吹き始めてるなという前向きな印象を持っています。

泊:北九州はコロナ中、高校演劇をやっている生徒さんが半減して大学演劇もサークルがなくなったとか聞くので、コロナ後に若い人たちが何か、これまでうごめいて作ってきたものが今後どうなっていくのかという心配はありますね。

仲谷:川口に君の話を聞いて見える世界が違うなと思ったのが正直な話で、僕らは若い人の活動、大学生の活動とかそこまで目が行ってないなと。僕から見る福岡の演劇は高齢化と言うか、ショーマンシップは30年、僕が20代ギリギリの時に作って僕がもう還暦ですから、今回の座組でいろんな視点から見ると刺激があるなと感じていたところです。感じ方を変えようと思いました。

Q「甘棠館が25周年、新しい一歩ですね」

仲谷:芸術文化振興基金に採択されたんですけど、申請書に本音を書いたんですよ。本音と言うのが、演劇に軸足を置いてきた人と作りたいというものです。採択されたので驚きましたけど、審査に携わっていた方々もうっすらと昔の演劇の作り方じゃないのが主流になって来たと感じているのではないかと。それと劇場のブランディングをやりたいと思っています。いい作品を劇場で作ることによって、その劇場に来るといい作品が見られるようになるということです。

Q「川口さんに。今回は40代以上の方を演出される。先ほど”何をやっても面白いメンバー”と言ったが若い人と違うベテランの面白さはどこにあると川口さんが考えているのか」

川口:ご一緒したことがある役者さんが多い…一緒にやっていてすごいなと思うのは、一個のセリフに対してアプローチの数が多い、いろんな角度で持って来てくれます。ベテランだからでしょうね、自動的に膨らませてもらえるというか、別に僕が手を引いていく必要がなく、僕のイメージを伝えることができさえしたらあとは増幅させてくれる。ある程度の高い経験値のある役者さんじゃないとできないと思います。さらに人間としての余裕もあると思うので、僕が「あ、ちょっとそれは…!」と言ったらそこはどっしりと受け止めてくださるだろうと(笑)。どれだけ試せるか、引き出せるか、泉が深いと思うのでそれがやれるだけの技術がある皆さんと思っています。

*これから始まる新しい企画にワクワクとした高揚感、仲谷さんからのラブコールとそれに応じたみなさまのLOVE♡LOVEな空気(?)、サービス精神が豊かな人々らしい笑いの絶えないコメント。お稽古はこれからだろうけれど、すでに和気あいあいとした良い雰囲気が伝わってくる。そして「台詞が覚えられない」「カンペを天井のパイプに貼る」「カンペが読めるのか?」「台本の字が小さい」「耳が遠くなる」などなど、フツーの俳優さんたちの制作発表ではまず聞くことのない言葉が飛び交う(笑)。それらの山を越えて、ベテラン陣がどんなお芝居を見せてくれるのか、楽しみである。個人的には、平義隆さんの「セツなハイボール」の歌詞にしみじみとしましたのよー。

【日程】2025年8月27日(水)19:00/

        28日(木)~30日(土)14:00 & 19:00 

31日(日)14:00 全8ステージ

【金額】4500円(前売り 3500円)

【購入先】チケットぴあ・ピクニックオンライン・甘棠館 

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