本の紹介(10)
『ベラ・レーヌ・システム』岡田正子 フランス演劇クレアシオン 2001年

福岡市内で俳優をしている彰田新平さんから紹介してもらった(そして貸してもらった)本。モスクワ出身の女優だったベラ・レーヌがフランスに亡命、演劇学校で教えるうちに確立していった演技法を、パリで直接学んだ岡田正子氏が帰国してまとめたのが本書である。ベラ・レーヌは自身の演技法を教えはしても本にまとめることはなかったから――「活字で読んで、頭でわかっただけでは始まらない。心の部分が大事だから」とよく言っていたそうだ――岡田氏自身もこの本を出すことに躊躇したらしいが、恐らく俳優にとっては出版を感謝する一冊になっている。(そんなわけだから私ごときが本書の演技法をここに書くのは控えるしかない。読んでね)
ベラ・レーヌは、モスクワのスタニスラフスキーの学校と同じ系列の学校で、ニコライ・ペトロフとメイエルホリドに師事していたのだという。1971年には来日して公開講習を開いてもいる。岡田氏は1950年代のパリ留学中に彼女の学校に通い学んだそうだ。帰国してからは長く「ベラ・システム教室」を開き、坂東玉三郎やそのほか多くの舞台人・タレントたちに演技を教えたとも書かれていて、それも興味深い。
俳優ではない私にとっても、実はこの本はとても有益だった。それは「想像力」についてだ。というのも、私は小学校高学年対象の文章表現教室を開いてもいて、毎回ワークショップ的なミニレッスンをやっている。つくづく、「子どもの発想は自由だ!」とか「子どもの様に伸び伸びと」とかいう大人は、子どもと一緒に創作をしたことがないんだろうなと思う。知識も経験も少ない子ども達は、実は「好きに/自由に書いていいよ」と言われた方が戸惑うのだ(未就学児~1年生ぐらいまではそうでもないけど)。多くの子ども達は、びっくりするぐらいに発想が貧弱。だから、少ない経験の中でいかに想像させるか(それも細かく具体的に!)、限られたボキャブラリーの中でいかにその想像を言語化させるか、がポイントになる。物語だけでなく、作文だって感想文だって詩だって短歌だって…同じだ。その立場から本書を読んでいて、「これ、使えるんじゃない?」とピピンときたわけだ。
子ども達のことを考えた後に、もう一度、本書に書かれている想像力の所を読み直してみた。そして考えてみた。想像するということは…自分の心の動きを細かく分析するということ。相手を深く観察するということ。様々な職業を、環境を、歴史を、時代を、知るということ。…そうか、だから岡田氏が「新聞を読みなさい」と言っていたのか。ああ、と腑に落ちた。
本当の想像力は、演技にも役立つ。文章を書くのにも読むのにも役立つ。そして、突き詰めるとギスギスした社会を変える、誰もが思い合える社会になるんじゃなかろうか。まずは新年度、私の生徒と一緒に、想像力を鍛えてみようと思っている。
