レポート「有☆タカプレゼンツ」の『ループ!』のゲネ」を見る

*kitaya505の北村さんから、「有☆タカプレゼンツ」の『ループ!』のゲネを見に来ないかと声がかかった。子ども向けの演劇作品だという。「有☆タカプレゼンツ」とは、北九州市を拠点に活動する劇団「有門正太郎プレゼンツ」代表の有門正太郎と、同じく北九州市を拠点に活動するダンスカンパニー「イマ☆タカDance Family Selection」代表の今村貴子がタッグを組んだ、パワフルなユニットである。両方とも観客を楽しませることに長けているし、先日見た「イマ☆タカ…」の公演にいたっては観客をどんどん舞台に上げて参加してもらうわ風船を客席と舞台で飛ばし合うわ、ここまでやるのかと驚いたほどだった。大人の私ですら「舞台に上がることになったらどうしよう!」なんて期待と不安でドキドキしながら座っていたのだから、こりゃ子どもはたまらないだろうなとニヤニヤしたものだ(余談だが、昔『Cats』を見るたびに、ラムタムタガーに連れ去られる=客席から選ばれて舞台に上げられる人を羨ましがっていたことを思い出した)。そんな2つのカンパニーが1つになって子どもたちに向けての芝居を作ったのなら、楽しくなるのは間違いないだろう。

*場所は西門司市民センターの多目的室。スリッパに履き替えて広い部屋に入ると、色鮮やかなカーディガンを着た有門さんをはじめ5人のキャストが出迎えてくれた。低いステージの真ん中には枝を広げた一本の木、本や紙が吊り下げられている。

 まずはキャストから観客へのあいさつ。「漏らしたら困るから、行きたい人はうんこ行っていいからね!」と笑わせながらも、「みなさんには、お客さんという役割があります。演劇は見る人がいないと成り立たないんです。見る人も大切なんですよ。一生懸命に見てくれたら嬉しいです」と大事なことを伝える。夢中になって見てくれるとは思うけれど、「自分もこの空間の一員なんだ、お芝居を作っている仲間なんだ」と思ったら、きっともっと楽しくなるね。そしてさらに「君たちにも参加してもらう」との一言。子どもたちの心臓はバクンと飛び跳ねたに違いない。前に座っていた体操座りの女の子、上目遣いに見ながら、身体を縮こませている。彼女の胸のうち、手に取るようにわかるなぁ!

左より、有門正太郎、門司智美、佐藤恵美香、今村貴子、青野大輔

 物語の舞台は町はずれの廃校が決まった小学校。取り壊しの調査に来た役場の坂本(青野大輔)は、怪しげな用務員のおじさん(有門正太郎)の「図書室、行った方がいいかもね」の一言に誘導されて図書室に行くことになる。図書室のメモ、願いの木、校庭の石…どうやらこの学校には七不思議があるらしい。首を傾げながら図書室に行くと、コソコソと何かをしている3人の子どもたち。『学校の秘密の絵日記』を見つけた彼らは、その中の「秘伝書」にある「学校がピンチの時には図書室の本を探せ」の言葉を真に受け本を探していたところメモを見つけ、暗号を解こうとしているのだった。

子どもたち役の今村・佐藤・門司が、
「大人が子ども役をやっているわざとらしさ」がなくて、私は好きでした

 その後の展開は伏せるけれど、学校の秘密、なぞ解きという組み合わせは最高である。思い返してみると不思議な言い伝えや怪談話は私の小学校にもあった。入りたくない教室があったり、○番目のトイレの鏡は未来が見えるという噂があったり…怖い話に限らずジンクスめいたものやちょっと不思議な秘密は、どの小学校にもあったのではないか。一時期、小学生の間で『学校の怪談(秘密)』シリーズ本が流行ったので特に新鮮味はないが、やっぱり一気に親近感が強まり気持ちが高揚するネタなのだと痛感する。

 面白いのは、この秘密・秘伝書を、かつての小学生が作った●●●という点を明らかにしている点だ。「大昔から伝わる不思議な話」や「まことしやかに噂されている話」は、発信元が明らかでないからこそ信憑性がある気がして信じてしまうわけだが、それを小学生が見る芝居において「秘密・秘伝書は誰かが作った物なんだよ!」と明らかにする潔さに少し驚く。私なんかはそこを曖昧にして神秘性を残しておきたいと思ってしまいそうだが、このあっけらかんとした姿勢は、そんな些末なことよりなぞ解きの力が子どもたちを魅了することを知っているのだろう。また「誰かが作ったこと」がノスタルジーを喚起する仕掛けになっていて、確かに物語の展開としてはそちらの方がいい。そういえば帰りに「君の秘伝を教えてね」と書かれた、マイ秘伝書づくりの紙をもらった。いずれは学校巡演を考えている本作、いっそのこと秘伝書づくりのワークショップまでセットにするのはどうだろうか。

 子どもたちを楽しませるのはなぞ解きだけではない。まずダンスが楽しい。今村貴子と青野大輔の上手なダンスも見ものだが、個人的には『くるみ割り人形 花のワルツ』に合わせた小学生らしい踊り、言い換えるとこの音楽を聞いたら思わずやっちゃいそうな身体の動き(の踊り)が好きである。「踊るというより思わず動いちゃった」感が子どもたちに近いと感じるのだ。子どもたちとの距離を重視していて好感が持てる。また用務員と先生(有門正太郎)の早替わりなんかは「ワーキャー」と大喜びする声が聞こえてきそうだし、「並んでこっそり図書室に侵入」するシーン(+変顔)のおバカな感じ(BGMはピンクパンサーのテーマがぴったりね)も子どもたちの喜ぶツボを心得ている。そしてこういった仕掛けのパターンがどれひとつ同じでないのも、欲張りでいいなぁ。

 *「(校歌は)この学校の生徒しか歌うことが出来ない」というセリフを聞いて、ハッとした。大きくなってその歌を何となく口ずさんでしまった時に、自分は確かにその小学校に通っていたのだと、この歌がその証なのだと気づくだろう。それはあなたには帰る場所があるのだという、温かいメッセージだ。…そうか、だからこの小学校名が「再帰●●小」なのか、「いつでも帰れる」という歌詞なのか、と舞台上の黒板に書かれていた校歌を思い出した。あなたが学校を好きになればなるだけ、学校はあなたの礎となってきっとずっと見守ってくれるよ――口にするのは面はゆいけれど、そんなメッセージが込められていると思う。

 いや、子どもたちがそこまで汲み取れなくてもいいのかもしれない。その価値に気がつくのはずっと先の大人になってからだから。

「今をたっぷり楽しんで、ゆっくり大人になれよ!」 

楽しくて優しいまなざしにあふれた作品。たくさんの子どもたちに見てほしいと思った。

子どもたちを入れての本公演にて
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