インタビュー:五味伸之さん(空間再生事業 劇団GIGA)

2024年3月、面白い体験をした。空間再生事業劇団GIGAの『漫画朗読劇「日野日出志」』を見たのだ。何が面白かったのか。それは

①漫画そのものを舞台にする試み                               ②朗読×合唱 という試み                                                            

この二点が斬新だったのである。もちろん、①に関しては「漫画原作の作品」というものはいくつも見たことがある。しかし本作は、「漫画が原作」ではなく、漫画そのものを舞台に立ち上げようという試み。演出・構成の五味伸之氏が「漫画の中のセリフ・効果音・オノマトペを声で読み、漫画記号を合唱の歌で表現する朗読劇」と説明しているように、ストーリーだけではなく漫画の紙面そのものを「すべて舞台に上げよう」としたわけである。漫画記号もひとつ残らず、である! そしてその漫画記号――例えば暗闇の中で光る様子とか…恐怖におののくヒトの脂汗とか――を合唱で。ソロの歌ではなく合唱というのが、日野日出志のオドロオドロした雰囲気、観る者のザワついた気持ちにぴったりで、衝撃的だったのである。本作についてはもっと語りたくなるので少し我慢するとして、本作においてもう一つ重要な点がある。それは

「目の見えない方の新しい劇場体験」になる                          

というものである。セリフのみならず漫画の全て(効果音、オノマトペ、コマ割りの工夫、文字の大きさやフォントの違い)を効果的に表現しながら舞台を作っている本作は、「耳で聴く漫画」と言っても差し支えないだろう。

 そんなわけで、この「トンデモナイ」作品を作りだした五味伸之さんに、本作について、そして視覚障がいのある方も楽しめる演劇作品についてお考えをうかがった。

柴山:合唱と芝居を一緒にやりたいというのが最初だったんですか?

五味:いや、同時並行的に思っていて。合唱を使った演劇をやりたいというのは昔…2005,6年ごろから思っていて、20代の前半から思っていました。作品それとは別に日野日出志のマンガが好きだからマンガを劇にできないかなと思っていたのも同時に持ち込んでいて…それと2019年に福祉施設で演劇のワークショップをやることがあったんですね。その時に「参加者に特別な配慮が必要だったら事前に教えてください」と伝えていたのですが、当日に行くと、視覚障がいの方がいらっしゃると知って僕けっこう慌てたんですよ。用意していたプログラムが彼らに通じるのかどうか、進め方も含めて。その時が僕にとって初めて視覚障がいの方と演劇をやることになったので。開始一時間前、どうしようかと考えたんですけど、結局、最初に準備した通りにやりました。進め方をちょっとずつ変えながら進行していくという形で終わりました。その時に、ホントに自分の演劇の中には視覚障がいの方と演劇を共有する方法とか考えが全然ないんだなと思って、何かできることはないかと思ったのが大きかったです。

 それで日野日出志をやりたい、それとは別にマンガを劇にしたいということとかあって、劇団GIGAで月に一回創作を試すワークショップをやっていました。その時にお試しでマンガを読んでみました。擬音も声で読んでもらったりして、これちょっと良さそうだなと手ごたえがあったり…多分その時には擬音、漫画の書き文字たちを効果音的に合唱、歌で表現したら面白そうだなと思っていて、だいたいこのことが重なってやることになりました。

五味伸之さん

柴山:うまく繋がったんですね。福祉施設でのWSは、当初、想定されていた障がい者とは違っていたんですか。

五味:最初は知的(障がい)の方と、発達(障がい)の方と…身体(障がい)の方はいないと聞いていたんですよね。視覚障がいの方は一名だけいらっしゃいました。全盲の方、光をうっすら感じるという方でした。

柴山:その時やったワークショップの内容は全く変えることなく使えたということなんですか。

五味:問題なく実施できたという感じでした。

柴山:傍に介護者がいなくてもできたのですか。

五味:できました。あの時は、そんなに人と接触して…とか、二人で向かい合って対応してというプログラムじゃなくて、比較的自分で自分の体を扱う方法とかやり取りを通してやっていく感じだったので、出来たかなという感じです。

柴山:きっかけとしては、その時に「自分の中の演劇に視覚障がいの方が含まれていなかった」と気づかれて、それでいつかは視覚障がいの方を対象に作品を作りたいと思われたんですか。

五味:そうですね…作りたいとまで思ったかわからないけど、自分がやっている演劇を伝える方法は開発したいなという思いはありましたね。

柴山:開発したいという言い方をされるということは、通常のやり方では通用しないという意味ですか?

五味:そんなこともないんですけど、特化させて作る作業をしないと、自分の中ではこの部分が伝え合えたりする作業ができるんじゃないかということ。特別、視覚障がい者対応をしていない舞台の観劇もGIGAとか他の劇団の人たちに聞いても「たまにお客さんの中に来る人いるよ」という話をしているので、そういうことではないと思うんですけど、それは観客の資質にもよることかもしれないですけど。

柴山:GIGAにも視覚障がいの観客がいらっしゃったことがあるんですね。その時に事前対応はなさったんでしょうか。

五味:僕は全然してないですね。僕が入団するより前…かもしれませんけど。

柴山:最近は視覚障がいや聴覚障がいの方の対応も始めた劇団があると聞いています。脚本の事前貸し出しや「この人は〇役でこんな声です」というのを事前に動画をお送りする、そうしたら声で覚えられるから、と。そんな事前対応をされていると聞いたことがあります。いわゆる「情報保障」ですね。現状を見ると、劇場よりも個々の劇団がそういった観客向けの対応を始めていて、劇場側は後手に回っているという印象がありますね。

 視覚障がいの方が演劇を見るということについて…一体、作る側はどんな工夫ができるとお考えでしょうか。例えば今回の作品は内容に工夫されていました。面白い演出でした。私は、「情報保障」はもちろんやるに越したことはないと思っていますが、作品の表現や見せ方を工夫することでどんな観客をも取り込む方が、作品として魅力的で意味がある気がします。その意味でも3月の『漫画朗読劇日野日出志』を面白く拝見して評価しています。

五味:今回は視覚障がい者の方にマンガを体験してもらうという企画で実施したので、まずできるのは、そういう対象の方に観客として来てもらうのだなと自分の認識の範囲の中に入れておくことが重要なのかなと思います。就労支援施設でも働いていて、そこに視覚障がい者の方がいらっしゃっていて、その人ともに一般就労に向けた訓練の支援をしてるんですけど、その時に日常のほんと何でもない些細ないろいろな出来事の中に不便とかためらいとかを持ったりするんだなとか、二人で外出したりすると「階段のこの色が見えないんですよね」「何でこことここを似た色にするのかな」とか。その人は全盲ではなくロービジョンなので視野があるんですけれど、細かいところを感じ取れるから、それを具体的に作品に活かしているということではないかもしれないですが、そういうことを知っているだけでちょっとした細かい設定の時に生きてくるんで、そういう意味でも創作する側の人は、自分の範囲の中に色んな人がいらっしゃるんだなということを意識しておくことは必要なのかなと思いますね。

柴山:五味さんのみならず、出演メンバーの方々はいかがですか。出演者もその事を念頭に置いているかどうかは大きいのではないかと思うのですが。

五味:んー、どうなんでしょうね…創作のメンバーは…どうやって…マンガの映像を、観客、鑑賞している人たちにどうイメージを伝えていくのかってことに特化してもらうのを一番にしていたので、そこまで視覚障がいの方に、という理念は共有の話…もちろん話はしましたが、研修をしたり学ぶ時間を作ったりしたということはなかったかもしれません。

柴山:あえてする必要はなく、十分(出演者には)伝わったということでしょうか。

五味:余力があればした方がいいなとは思いますね。時間があれば。

柴山:私は劇団Fourteen Plusさんが聴覚障がいの方も対象にした作品を作っているのをここ2年ほど見ていて、とても面白いと思っています。それは舞台手話通訳という存在が、普通の手話通訳者と違い、演技の中に溶け込んでいる、演技者の一部になっていて、これがめちゃくちゃ面白いんです。舞台のセリフを翻訳していかなきゃいけないんですね。だから役者であり通訳者であり、一部であり全体であるんです。作品そのものが従来のものとは大きく変わっていく。今回の視覚障がいの方をも対象にした作品も、仮に視覚障がいの方が観客席にいなかったとしても十分に成立した面白さがあったと思います。

五味:創作者・開発者側として、そこに向けて作業をしたことで、イメージするにはこういうところだねとか、改めてテキスト、マンガを読み直してきました。それが音だけで、目が見えない人にマンガを読むという体験を取ってもらうということは、マンガを読むってどういう体験なのかとかをすごくゆっくりと、以前よりもやわらかく、流れを沿っていく必要があるから…そういう経験を得るのは間違いなく「マンガを朗読で、合唱で伝えよう」ということよりももっときめ細やかな作業になったと思います。視線が、マンガを読んでいてまずここに視線が行って、こう流れたいき、周辺視野でざっくりここら辺の黒いものを見てるよね、とか。そしてここまで来てから、次のページめくった瞬間にどーんと来るから強調するよね、とか。そこら辺のコントラストを作っていく必要とかはありますよね。

柴山:出演された峰尾かおりさんが、(五味さんの指示が)すごく細かかったとおっしゃってました。そういうことだったんですね。

五味:そうですね。

柴山:「マンガを読む体験をしてもらう」という意味が、今のご説明で腑に落ちました。物理的に「マンガを読む体験」を解析したのですね。例えばコマ割りの意味、どこを見るとか、オノマトペの意味、フォントの大きさから形、そのインパクトの強さなど、当たり前に享受しているものを分かってもらうということですよね。

五味:そうだと思います。

柴山:それで計算して細かく指示をなさったんですね。擬音、擬態語は全部、合唱に任せるということは最初から決めていらしたんですか。

五味:はい、だいたい最初から決めていました。あと、漫符、マンガの中の記号のことなんですけど、例えば汗がタラっと流れているとか、走っている時の横のピューっていう線とか、そういった漫符も合唱の人たちに基本、表現してもらおうとか。集中線(注:マンガの画面に表現効果を付与する効果線の一つで、集中点と呼ばれる中心へ向かって描かれた複数の線を指す)が入ってるとか。

柴山:どんな風に表現していましたっけ?

五味:それはコーラスで「は~♪」とかって。

柴山:ああ、そういうことですね。ではすごく細かくマンガを解体したんですね。だから新鮮な面白さがあったんですね。とても重層的な感じがしたんですよ。サラッとやらないってそういうことなんですね。手ごたえとしてはいかがでしたか。思いもかけず上手くいったところなど。

五味:手ごたえはけっこう良かったですね。マンガで朗読すること自体もよかったですし、経験としても声に出して読むって、普段マンガを読むスピードより何倍も遅くなるので、そういう意味でも味わい方が大きく変わったと思いますし。鑑賞する人にも「イメージ出来ました」とか、それこそ目の見えない方にも「本と読んでるような感じがして」とか「こういう風にしたら人物の顔がボワって出てきた感じがして」って言ってもらったりして。嬉しかったですね。

柴山:私もマンガ大好きで小さいころから読んで育ってきましたけど、大きくなって、マンガを読まずに育った人がいることを知ってかなり驚いたんです。マンガって子どもはみんな読むものだと思っていたから。そこでマンガを読むのも、記号とか約束事を頭に入れてないと(知ってない)と読めないのだということに気がついて。マンガの読み方が分からないということを言う人がいた時に初めて気づいたんですね。今回のマンガを解体すればするほど、その辺りも痛感されたんじゃないですか? この記号がわかってないとこの意味は伝わらないとか。

五味:そうですよね。視線がどう流れて行けばいいのか、単純にコマの流れからわからないという人もいるから…。

柴山:そして突然、それまでの約束を破ることもあるじゃないですか、突然見開きとか、マンガ家の声が余白に書かれているとか。今お聞きしながら、読み方を解体する作業は大変だけどかなり面白いのではないかと思いました。

五味:そうですね。先行研究(注:「視覚障害者のマンガ体験に資する文章化の実践的研究」森菫 立命館映像学 2018年度学生優秀論文①)でも視覚障がい者の方にどうやって文章化するかというのがあります。これは視覚障がいの方に音声でマンガを伝えるっていう時に、要はガイドですね、「いま、男が後ろを振り向いた」とか、そういう音で説明をつけるというタイプの表現なんですけど、それをしていくためにはどうしたらいいのかってことで視線誘導の事もあって、確かにそうだよねって。

柴山:それは脚本のト書きとは違いますよね…? 何が違うんでしょう?

五味:違いますね。例えば今のガイドは「男のアップ」「男の顔はスクリーントーンで陰になっている」とかいうのは、ト書きといっても説明的だから、創作する人、演出する人にとってはあまり要らない? 想像力を刺激させないト書き、かもしれない。

 あとは、横浜の劇場で「音で観るダンス」って企画があって(注:KAAT神奈川県立劇場で2017年度から21年度まで行われた、視覚に障害がある人たちが芸術を楽しむために、音により資格情報を補助する音声ガイドを開発するためのワークショップと研究会)、捩子ぴじんさんの踊りで、1個決まった振りがあって、それを文字で音声化して目が見えない人にもダンスを体験してもらう、観劇してもらうという企画があって。それで能楽師の安田登さんとか、ラッパーの志人さんとか、劇作家の岡田利規さんとか、あと音声ガイドで「声を観る」ダンスを作るワークショップのメンバーとか、何種類かでテキストワークをしていて一つの踊りとか経験とか体験をこうして伝えていくんだなというのを参考にするとか。それはユーチューブで配信されているのを見ました。

 それもあって、2019年に日本演出家協会がやっている戯曲研修セミナーに企画で参加した時に、声で演劇を伝える方法について企画して取り組みました。唐十郎特集の時に「声で観る演劇」と題して初期の『24時53分「塔の下」行は竹早町の駄菓子屋の前で待っている』という戯曲を材料にして舞台で鑑賞した時の音の作りをちょっとやってみましょうというのをワークショップで実施したりとかして、学んでいきました。完成したものはラジオドラマのようなものなんですけど。

柴山:朗読だけじゃないですよね、どこに重きを置いてやるんですか。

五味:まずマイクの位置ですね。キャストの位置と、キャストの首の位置とか、角度とか、で音の収音する空間性みたいなものを作っていくことを工夫しました。

柴山:通常の朗読だったらはっきり聞こえることが第一ですからマイクの位置が固定されていますよね。朗読者もほとんど同じ位置から読みますね。リーディング公演となると少し違っていて台本持ったまま動き回りながらやりますけど、それともまた違ってあえてマイクの位置と距離を考えられたんですね。

五味:そうです。それともし実際演じるとなったりしたらキャストはどういう体勢になってどっちを向いているかなとか、姿勢とかを考えながら作っていきました。

柴山:聴覚障がい向けの作品だと、舞台手話が必ず見えなくてはならないという制約が絶対あるんですね。条件というか。今回の視覚障がいの方向けにはそういった必ず守るべき点というのはあったんでしょうか。

五味:制約はなかったと思いますけど、キャストを固定して動かなくさせたのは自分にとっては制約?にしたかもしれませんね。うっすら見える人には、動かれると見えなくなっちゃうから。

柴山:目で追えなくなっちゃうということですか?

五味:そうです。これぐらいの視野で生きている人はその中で動かないでいてくれたらずっと人の目線や表情を確認できるから、その人がひゅっと視野から消えたら、たぶんもう追わないです。後はずっと耳だけの体験になっちゃうので。

柴山:視線というか場所は固定する代わりに、音の強弱などで遠近感を演出されたということですね。

五味:そうですね。キャストには音の出し方、伸ばし方、切り方、そういった声の出し方を工夫してもらって、スタッフにはスピーカーの位置を6個ぐらい位置を作ってもらっていて、それで「この時はこっちから出してください」「この時はここからこうしてください」「この時は合唱の全体だけど、このセリフはここからにしてください」「ここは生にしてください」と全部設計して作っていった感じです。

柴山:では全部マイクだったんですか?

五味:いや、全部じゃないですけど、マイク使ってますね。

柴山:通常のGIGAの芝居はほぼ生でやってらっしゃるんでしょうけど、今回はマイクの力も借りた…

五味:かなり借りました。

柴山:そうすることで表すべきことを表わせたということなんですね。

五味:そうです。

柴山:視覚障がいの観客はどのくらいいらっしゃったんですか。

五味:二日合わせて15人ですね。全体の10%か、それ以下か。

柴山:どんな所に声をかけたんですか。

五味:β版の時は、視覚障がい者の学校に勤めている寮母さんがいらっしゃって、その方が元GIGAの方なんですけど、その方経由で周囲の方に声をかけてもらったんですけどその時はゼロでした。今回は、加えてラジオに僕が出てどういう公演なんですかとか思いは何ですかとかインタビューに答える形の番組に出演する事ができて、それで伝わったみたいで来てもらうことができたのがあったのと、視覚障がい者当事者支援団体のトップの人と制作がお知り合いだったみたいでこの公演を案内してくれた。そしたらその周辺の方がわらわらと来てくれた。

柴山:視覚障がいの方はあまりお芝居には行かないのでしょうか。

五味:…感想を聞いた限りはそういう感じでしたね。

柴山:「行く」という選択肢があまりなくて、公演を案内しても飛びつかなかったのが、初回だったのかもしれないですね。またラジオの効果が大きかったんでそうね。いらっしゃった視覚障がいを持つお客さんと直接お話はされましたか。

五味:はい。終演後に。まずなんか嬉しそうでしたね。観劇できたことが嬉しそうだったことと、僕の知り合いでアニメ好きの方がいるんですけど、中途障がいなんでオタクなんで昔はマンガをバリバリ読んでて、アニメ見ているんですけど、「マンガ読んでるときのあの感じが…!」と言ってもらったことが結構嬉しかったですね。また「ずっと動かないでいてくれたから演者さんの表情とかも見ることができて嬉しかったです」とか。

柴山:動かないということは大きいんですね。

五味:大きかったみたいです。まぁ、あの劇場自体が動いてもあまりいい効果がなさそう、狭いですし。試演会を鳥飼倶楽部でやった時はフラットでそのまま客席に繋がっていたんで演者が動く演出を最後だけしたんですよね。それでドタドタと人が動いている表現が出来たらいいなと思ったんですけど、春日の会場は客席と舞台が離れていますし、ちょっと動いてもあまり効果的でないだろうなというので動かない方がいいだろうと。

柴山:試演会が平土間だったおっしゃいましたが、そうすると振動も伝わりやすいですよね。浅知恵ですけれど、視覚障がいを持つ方にとって振動が伝わるのは効果があるのではないかと思うのですが、逆に怖いとかやめてほしいという要望もあるかもしれない。その辺りはいかがでしたか。

五味:どうなんでしょうね。…別に日常的なことですから、そこまでないかもしれない。

柴山:中嶋さん(Fourteen Plus)がおっしゃっていたんですが、聴覚障がいの方とお芝居を作っている時に暗転を使うと、怖いと言われたそうなんです。それか教えてほしいと言われたと。それで、視覚障がいの方向けに作る時に思いもかけない気づきがあったのかなと思ったのですが。

五味:振動はそこまで…な気がしますけどね。

柴山:試演会でやって気がついて、今回に反映させたことってありますか。

五味:動かないほうがいいという案は実施できたんですけど、動くっていうのもちょっと入れておきたいなと思ったんですよね。本当は(客席と舞台が)フラットの場所を探していたので…合唱隊が動きながら歌がめぐって移動してもらうということをやりたかったんですよね。鳥飼でやったときも移動させながら歌ってもらうまでの稽古数が足らないと思ってやめてもらって、今回だったら行けそうだと思ったんですけど、会場の都合でそこはできなかったんで、次回もしチャレンジできるならそこはやりたいですね。その時は、今回の経験をもとに、動かない人物を作った方が良さそうだぞってことがあるので動かない人物を作ったりとか。

柴山:では視点を固定させるモノ・ヒトと、動くことで音の深みや厚みが出る…というものを作ると。あ、それは客席の周りを取り囲む…ってことではないんですよね? 一瞬、客席が真ん中に合って合唱隊が周りと取り巻いて動きながら歌うというのをイメージしてしまいました(笑)。そうではないんですね。

五味:そうですね、もしできたら面白いなとは思いますよね。音で音楽ライブ…スピーカーで360度取り囲んでいてミュージシャンがスピーカーを調整しながら音がグルングルン回ってトリップするような、それを昔経験したことがあって。その合唱バージョン。だからキャストが合唱者がたくさんいれば、10人から15人ぐらいいれば。

柴山:以前見た芝居で…観客が取り囲む形だったんですけど、舞台四隅に水が張った壺のような物が置いてあって音楽がガンガン鳴ると音の振動で水がぴちゃぴちゃ撥ねるんですよ。面白いと思いました。確かその壺の底にスピーカーを仕込んでいると教えてもらったかな。振動は当たり前に体験しているけれど、それを視覚化するのは面白いなと思った事を覚えています。音の動き、振動なり空気の流れなりで、伝えられたら面白いですね。

五味:そうですね。今後も、漫画朗読劇、日野日出志に限らず、色々な作品をやりたいですね。アンケートでもどんな作品が見たいですかと聞きましたから、やれたらいいなと思ってますね。

柴山:どんなマンガでもできますか?

五味:んーたぶん。できると思います。――今、月に一回、「よりそう演劇ワークショップ」という自分でやっている企画があるんですね。元々ももち県立文化センターで表現の面白さを体感するワークショップをももち文化センター主催でやってたんですね。それが2018年かな。一年に一回、2,3カ月集まって全部で7回とか10回とか集まって最後には発表も行って振り返りして…というものだったんですけど、それが2022に終わって、毎回「次、また会えるか分かんないけど、またね」と別れて、それが心苦しかったんで、自分で月に一回やっていればまたちょこちょこ会えるなと思って。そこに参加した人たちが中心になりながら今、参加してもらって自主的にワークショップをやっていて、去年の12月には成果発表をしたりとかして…

柴山:具体的にどんなことをされているんですか。

五味:2時間のワークショップで、最初の1時間ぐらいは体操の時間で、ちょっと体を動かす、声を出す、歌を歌う時間です。この3つをやって、後半の一時間でその日のテーマになる演劇的な遊び?をやる。シアターゲームとかではなく、今回は「音を体験しましょう」とか。音を感じる、音を組み合わせて場面を作る、表現するとか、演奏するとか、光と影、照明とか影を使って表現したいことやってみたい事をやる。

柴山:対象者は…?

五味:障がいがあったり、シニアが入ったり。ももちでやっていた時も後半は、できたら障がいがある人たちだけが対象ではなくグラデーションができるように生きづらさを感じている人などちょっとずつ対象を広げていっていきたいなという話もして。最後はシニアの方にも加わってもらいました。

柴山:その方々も観客で来てくださいますね。

五味:まず間違いなく「よりそう」のメンバーの方たちは観客で来てくれますし、その家族関係の方も来てくれますし。

柴山:去年の12月にやられたその公演とは?

五味:5月からやったんですけど、作った内容を話すと、最終的には3つのお話ができましたよってところで、その3つのお話をどういう順番で発表したいかというのもみんなで決めて発表したという形なんですけど。ダンスではなく劇です。場面を表現するようなオノマトペみたいな歌と三声…3つのパートに分けて、「のはらーでー♪」みたいな場面だったら「たんぽぽたんぽぽたんぽぽ…」「サワサワ…」が複数人いて、「せーの」で指揮者に合わせてみんなで歌っていって場面を表現してから、次はこういう場面だね、と。

柴山:今回の芝居に繋がってますね。

五味:そう、繋がってますね(笑)。途切れなく…ずっといってると。だから『日野日出志β版』(試演会)をやったのが22年。「よりそう演劇ワークショップ」を始めたのが23年の5月。そこから切れ目なく続いているし、福祉施設でのワークショップを行った2019年の時の疑問から次の戯曲研修セミナーでの唐十郎特集「声で観る演劇」…

柴山:作品自体が、少しずつ繋がって形になってきているんですね。五味さんご自身が思ってもなかった変化ってありますか。

五味:ゆっくりになりますよね。障がいがある人とやると、何が今どこまでわかっていて何が今どこまでわかっていないのかを確認してやっていかないと、「わかっているよね」と思いこんじゃうことがほとんどなので。

柴山:思い通りに行かないこともありますか。

五味:…あり…ますね…あ、でもその現場においては、「思い通り」ということがあまりないので。その現場ではそれを持ち込まないようにしています。去年の12月の発表の時は、あくまでも5月から12月の活動の成果を見てもらうというつもりだったので、作品というより私たちの活動を紹介するというものだったんです。

 山口のYCAMにオーストラリアのBack to Back Theaterという劇団の公演を見にいったんですけど、それは知的障がいの方が出演者なんですけど、観劇してワークショップも受けたんですよ。それで当事者、キャストの人が進行役になってゲームやったりクイズやったりしながら次のまだ作ってない新作の内容を教えてもらったりして。3年かけて1作作ると聞いて、そんなにかけて作っているのかとドキッとして。で3年かけて作っている間に前に作ったやつをレパートリーとして世界で巡演していると。1年目にA作品を、2年目はB作品を、そうしている間に3作品目Cが形になってできて。たぶん試演という形で発表して作品を育てて成熟させていってツアーで持っていく、そんな形でやっているプロの劇団ですって言っていて、こんな作品の成立の仕方があるんだと思って。そういうのは自分も見習いたいなと思って。ここで活動してたりとか文化施設で発表会が最後ありますよとか発表会じゃなくて公演がありますよとかとなってくると、基本、なんでもかんでも逆算で創作していかなくてはならない。〆切ありきで創作する、いや、演劇とは〆切があるものだからと言っちゃえばそうなんですけど、なんかそれがさっき言った「思い通りにならない」っていうものがどうしても生まれてしまう。障がいを持ってるとかいろんな事情がある人たちと創作やってると、思い通りにならないような、どうしても切り捨てて進まないといけない現場が増えてしまうので、それがいやだなと思って今の「よりそう」はメンバーとも話し合って12月に一回発表したやつを再演しましょうと。ブラッシュアップして再演しましょうといって、今はみんなで、ちょうど先月終わったんですけど各3つのお話に演出プランをみんなで作ろうと言ってみんなで出し合って、「このお話のこのシーンのところはこういうライトでこう表現しよう」とか「このお話のラストはすごく悲しくて、おばあちゃんが昔を思い出しているようなものになったらいいよね」というような話が出てきたりして、それで演出プランを立てて…

柴山:途中でスミマセン、その「みんな」というのも障がいがある参加者も一緒にということですね。

五味:そうですそうです。軽度の知的とか発達とかの人が来ているのでそれでいっているというところです。っていう形で逆算方式じゃない創作がに持って行けたらいいなとは思ってますね。たぶん自分にはそういうぐらいのちょっとゆっくりしたペースの方が合っているんだろうなと思っています。

柴山:本来ならどの芝居だってもう少しゆとりがあってもいいのかもしれないですね。お客さんとしては予定を立てて見にいけるのが前提ではありますが。

五味:そうですね、でも今回も2年前の試演会をしていることで出来てるので、そういう風に創作者側が安心して送りだせる準備、お金とか時間の都合とかを取り払って創作には向かい合いたいなと思っています。

柴山:Back to Back Theaterは政府からの補助金などはもらっているんでしょうか。

五味:ある感じですね。チケット50%それ以外50%って言ってたかな。確かチケット50%、補助金50%です。。。聞いたことの記憶なので、正確かちょっとだけ不安ですが…。

柴山:チケット代で50%賄えるのはすごいですねぇ。

五味:でもチケット代だけじゃなくて劇場側に買い取ってもらえる分の50だと思うけど、だとしても…。

柴山:補助金だけでなく、文化的なものへの寄付、そんなものに寛容な国だともっと作りやすくなるんでしょうけれどね。立ち入った事ですが「よりそう演劇ワークショップ」は助成金・補助金はあるのですか?

五味:去年度は国民共済から助成金をもらって実施できて、今年は取れなかったんでとりあえず自主財源で。まぁ会場費だけっていう形で運営していて、それだときついねということで、参加者からは参加費を取ってないシステムでやってたんだけど、来年からは参加費をもらわなきゃいけないかもしれませんという話を一人一人と時間をとって行っています、一応、説得というか納得してもらった上で進めていこうかなと、でもそれと同時に助成金も探していくという形です。

柴山:少し小耳にはさんだのですが、今回の公演も、チラシにしっかりと「視覚障がい者を対象に」と書かれているにもかかわらず協力していただけなかったとか…。

五味:ああ、当事者が出ていないことと、お話が障がい者を取り上げている内容じゃないという2点で却下されて、理解をしてもらえませんでした。

柴山:うーん、よく話を聞けばわかるはずなんですけれどね…。でも意味がある活動だと思うので、私もこうやってお話を伺うことで(インタビューを記載することで)少しでも多くの方に知っていただき、また理解していたけたらと思います。今後さらに活動の場が増えて面白い作品を生みだしていただくことを期待しています。本日はありがとうございました。

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