映画『リバー、流れないでよ』

●リバー、流れないでよ

監督・編集:山口淳太

原案・脚本:上田誠

出演:藤谷理子、永野宗典、角田貴志、酒井善史、諏訪雅、石田剛太、中川晴樹、土佐和成、鳥越裕貴、早織、久保史緒里、本上まなみ、近藤芳正

製作:トリウッド、ヨーロッパ企画


あらすじ

京都・貴船の老舗旅館「ふじや」で、ある日突然、2分間のタイムループが始まる。仲居のミコトはどこに行っても2分後には川のほとりにいる。番頭も料理人も宿泊客もみな2分前に戻るのだ。熱くならない熱燗、なくならない〆の雑炊、書き進められない文字。2分後にはそれぞれが2分前の状態に戻ってしまう。なぜこんなことが起きたのか、ここから抜け出すことができるのか??? 慌てふためく「ふじや」の人々をしり目に、ミコトは一人浮かない顔をしていて…?

感想

 京都を拠点に長く活動してきた劇団、ヨーロッパ企画の2作目の映画だ。前作『ドロステのはてで僕ら』は2分後の未来と繋がる映画だったが、今作の『リバー、流れないでよ』は2分前に戻ってしまうタイムリープもの。どちらもわずか2分という時間に振り回されて右往左往する様を描いている。

 ヨーロッパ企画と言えば、今から20年前(‼)初めて福岡で公演する時に福岡の演劇シーンに疎いからと見ず知らずの私に連絡をくれたことを思いだす。今のような八面六臂の大活躍になるとは知る由もなかったが、その時に送られてきた『サマータイムマシン・ブルース』の映像を見て、「舞台で」「シチュエーションコメディで」「破綻なく」タイムマシンものが作れるのかと興奮した。何よりまずとても面白かった。以後、全ての作品を見ているわけではないがヨーロッパ企画の舞台で一番好きなのはやっぱり『サマータイムマシン・ブルース』である(『サマータイムマシン・ブルース・ワンスモア』も楽しめたけれど)。

 脚本・上田誠は「物語において“時間”を可視化させる」ことが上手なのだと思う。その技に一役買うのが小道具。『サマータイム』ではクーラーのリモコン、『ドロステ』ではケチャップやゼブラダンゴムシ。何の気なく出てきたと思わせておいて、それが時間のずれや先取りや繰り返し…などを観客に明示する証拠となる。しかもそれらは笑いのネタとして計算されていて、観終わったあとにパズルのピースがパチリとはまった快感が残る。そういう点からすると、今回の『リバー』にはコレという小道具が見当たらない。「なるほどニヤリ」とするあの楽しみがないのが、物足りない。

 同じ2分という制約だが、前作『ドロステ』と今作『リバー』とでは描く射程が違うイメージである。前作は2分後の未来が見えるテレビを2分前の過去から持ってきて合わせ鏡にすることによって2分ずつ先の未来を「広げて見る」ことができた。イメージとしては後退しながらも少しずつ伸びていく線。今作は何度も2分間をくり返しては戻ってしまうために、登場人物たちが色んな2分間を試してみる、つまりは必ず中心点に戻ってしまうが放射線状に動いているというイメージ。従って今作は進んでいく面白さには欠けているが、バリエーションの豊かさが見どころだ。

 例えばやってみたかった「障子に指を突っ込んで穴を開ける作業」をやるとか、「飛び降りて死んでみる」とか。たった2分なのでやれることは限られていると思いきや、思いの丈を打ち明けることもできるし、あっちこっちへの逃避行も試せる。本人たちの記憶は2分経ってもリセットされないために、「これがダメならあれをやる」と前回の失敗を次に生かせるのだ。ちらりと「タクシーで事故に遭うお客が何度も繰り返すうちに事故を回避できるルートを見つけて助かる」との話も出てきて、『All You Need Is Kill』を彷彿とさせなくも…ない。

 コメディなので物語の展開やら結末やらを書く、野暮なことはするまい。解釈も分析も要らないだろう。ただただ、わちゃわちゃと楽しそうに「次はこうする!」「ココから始めるから!」とトライ&エラーをくり返していてゆるく楽しめる映画。そうそう、SF的な状況に置かれても登場人物たちが混乱しながら楽しそうにしているのも、ヨーロッパ企画の特徴の一つかもしれない。ラスト(オチ)についても、あれはないだろうという声も散見したけれど、ヨーロッパ企画っぽいともいえるし、「演劇」っぽいともいえる。あのオチに不満を持つ人は、「舞台の延長として」この映画を捉えてほしい。きっとアリだと思えるだろう。

 たった2分、されど2分。でも私はタイムリープするなら…やっぱりもう少し長い方がいいなぁ。

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