インタビュー:PUYEY

(左)五島真澄さん (右)高野桂子さん

*PUYEYは、福岡県を拠点に活動する高野桂子さんと五島真澄さんの二人による演劇的ユニットだ。2022年に北九州芸術劇場で「第9回劇トツ×20分」に優勝し、なんと先日開かれたチャンピオン大会(初回から昨年までの歴代チャンピオンが一堂に会して上演してバトルした)でも優勝。今大会で最後の劇トツ×20分の栄光をしっかりとかっさらった2人に、劇トツ×20分の経験についてお話を伺った。

「劇トツ×20分」とは

2012年から2023年まで、北九州芸術劇場で開催されてきた演劇バトル。応募団体は「上演時間は20分以内」「登場人物は3人まで」というルールのもとに上演し、審査員と観客による投票で優勝を決める。優勝団体には賞品として翌年の北九州芸術劇場での上演権が贈られるが、逆に覇者を転落した団体は翌年に本大会で司会をすることが義務付けられている。また優勝団体に贈られるトロフィーにも受け取ったものが何かを付け加えていくことが慣習になり、小倉上のミニチュアのついたトロフィーが光ったり動いたり…と「もはや何なのか分からないけれど価値がある」ものへと変遷を遂げていた。

 10回目となる「劇トツ×20分 2023」で本シリーズは終了。最後となる今回は、歴代の優勝7団体が勢ぞろいし、中劇場へと場所を移してのチャンピオンバトルとなった。

●劇トツ×20分 2023 チャンピオン大会

2023年7月23日(日)13:00~ @J:COM北九州芸術劇場

出演団体:F’s Company(長崎・2012年優勝)『はいけい』

不思議少年(熊本・2014、15年優勝)『スキューバ』

ブルーエゴナク(北九州・2016年優勝)『瀬戸際の旅』

劇団ヒロシ軍(長崎・2017、18年優勝)『一寸先はYummy!! Yummy!!」

劇団言霊(北九州・2019年優勝)『クーリング・ラブ』

万能グローブガラパゴスダイナモス(福岡・2021年優勝)『ぼくは笑わせることしかできない』

PUYEY(福岡・2022年優勝)『おんたろう』


インタビュー

――劇トツ×20分 2022にお出になろうと思ったきっかけをまず教えてください。

高野:コロナ禍でそれまでの活動が出来なくなったことがきっかけです。「観たらちょっぴり生きやすくなる作品を届ける」というPUYEYのスタンスとしては、演劇で競い合うのは性に合わないんですが…2021年に豊岡演劇祭に出ることになっていてそれがコロナで中止になったんです。「ARTS for the future!」(コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の支援事業)の審査にも落ちちゃって。その時は既に滞在していたので、全ての経費が赤字になって。二次でも落ちてるんですけど…(その時の状況についてはマンガにしています。https://togetter.com/li/1798568 )最終的に100万円ぐらいの赤字を背負うんです。ある程度活動している劇団だったらプール金だとか、劇団員で分け合ってまかなったりできると思うんですけど、2人しかいないユニットなので大打撃を受けたんです。本公演とかやっていきたかったんですけど厳しくて。作品を発表するチャンスがもうないぞというところまで追いつめられて、それで劇トツに出ようかと。自分たちが作りたいものを作って見てもらうということをモチベーションにするんだったら、出てもいいかということで応募しました。

――劇トツに出る場合も作品作りにお金がかかると思うんですけれど、劇場負担ではないですよね?

高野:そうですそうです。だけど、本当に最小限に、稽古場も無料で使えるところにして、「おんたろう」も手作りで(笑)。

五島:コストはあまりかけないようにと普段からしてきてたんで。一応、作品発表できる場所が欲しいってことで、まぁ、劇場を使うことに費用が掛からないので、だから稽古にかける費用をできる限り抑えたんです。ただ音響と照明のスタッフは自分たちで準備しなきゃいけないんですよ。それをプロに任せるか、劇団内の素人に任せるかは自分たちの判断ですけど。慣れた人が近くにいなければ誰かに委託しないといけないんで、それはどうしても(経費が)発生してしまうんですが。

高野:それ以外は、広報とかも劇場にしていただけるし。

――なるほど。それでスタンスを変えてでも出るという選択をとったということですね。

五島:2019年からスタートしたツアーがいろいろと延期になったことがあったので、なかなかうまくいかず、21年の頭に予定していたツアー(『UP』で全国7か所回るツアー、後半の3か所が延期になった)の延期公演はなんとか終わらせたんですけどそれ以外の公演はできなかったので、その反動で22年は発表できる場があればなんでもやろうと。

高野:『INDEPENDENT』 の一人芝居にも挑戦しました。『ハッピー・ロスタイム』って作品で。

――劇トツに出ると決まって、いかがでした?

高野:劇トツがどうというより、やっぱり作品を作れるのがすごい嬉しくて。自分の作りたいモチーフというのが何となくずっとあって。本当は長編で作りたかったんだけど短編で『おんたろう』を作って。作る上で、この「おんたろう」という存在がお客さんにどう受け入れられるかなという期待と不安があって、かなり手作り感がある見た目だし、かなり唐突に登場してくるし(笑)、受け入れられるかドすべりするかのどちらかだなって。

五島:自分たちは面白いと思っているけど。

高野:面白いと思って作ってるけど、けっこう不安があって。

撮影:ふじまつたえこ

――でも劇トツでは、どの劇団も自分たちが楽しいと思っているものを見せてますよね(笑)。

五島:それがその劇団ごとのカラーですよね。

――出場している他劇団との交流はあったんですか?

五島:あまり出来なかったですね。本番の前日に一回ゲネを、オープニングから最後まで全団体の公演をして、合間に少しお話するくらいでした。…コロナ禍だったから打ち上げとかもなかったですし。

――去年の優勝した時のことは覚えていますか。いかがでしたか。

五島:覚えてますよ。元々、上演できることが嬉しい、だから優勝とかは一旦忘れる…じゃないですけど意識せずに自分たちが見せたいものや納得できるものを見せるというのが念頭にあったので、それができたことが嬉しかったですし、優勝できたらいいな (笑)みたいな。でも発表の瞬間、観客の投票が一番多かったのかな。けちゃはガラパとPUYEYの投票数を逆と勘違いしてて。

高野:座ってて…ものすごい斜めから見たので勘違いしちゃって。もう駄目だ、こんだけ差があったらもう駄目だ、しょうがない、って。審査員票は同数。…ほんと、おんたろうが受け入れられるか、不安があったんで。それが、あ、おんたろうが、受け入れられた! 我が子のような気持ちで(笑)。この子、みんなに愛された…というか、子どもに友達がいっぱいできた時のような。良かったねーって(笑)。

――面白かったですもんね。…私も見ていて見事に騙されました(笑)。

高野:あれもお客さんの反応がすごかったです。最初「うわー」「ざわざわ、わはは」二段階、反応があって。

五島:意外と気がつかないもんだなと。やる方は最初から分かってるからそんなすごいことだとは思ってないし。

――手作り感満載で、モッサモッサやってきて、声も独特で(笑)。それがいきなりひっくり返すと…(笑)

五島:油断しますよね(笑)。

高野:去年は小劇場は空間が狭いから、笑いが「ドッ」って。中劇場(今年)は二段階の反応で。

――審査員にはなんて言われたんでしたっけ。

五島:二兎社の永井愛さんは「現前性」って言葉を使って、「舞台上にちゃんと“いる”」と、最後の講評で言ってくださって。

高野:目の前にちゃんといるってこと。

五島:もう一人の審査員、北九州市漫画ミュージアム(専門研究員)の表智之さんの話で面白かったのは、僕らが2番目でそのあと3本あったんですけど、その後の3本にも登場人物の後ろに「おんたろう」がいる気がすると(笑)。

高野:そうそう(笑)。他団体の作品で、ストレスを溜めているキャラクターの後ろに(おんたろうが)いる?って(笑)。

――それだけ強烈な印象を与えたということですね。優勝しての変化はありましたか?

高野:評価されるみたいなことが初めてだったので、自分たちが面白いと思って作っていることに対して、他の人にとっても面白いとわかって自信がつくというか…。コロナ禍でくじけそうになった瞬間がやっぱりあって。自分たちって何のために演劇やってたんだっけ…みたいな。そこから、観客投票数だったり審査員からの言葉だったり、ものすごく背中を押された気持ちになりました。

 優勝公演ってものすごい大変なんですよ。経済的にも準備も。でもやっぱりそれが原動力となって走りきることが出来たと思います。

――優勝して、演劇仲間からの反応はいかがでした?

五島:意外と優勝を祝福してくれる人が多かったのが、僕はびっくりで。というのも僕ら、一応、福岡を拠点にしてはいるんですけど、周りから福岡の劇団と思われてなくて、独自の路線というか…それが「おめでとう」って。

高野:各方面からあったよね。

――ツアーで行った先の方々からもということですか? 北海道とか三重とか…。

高野:はい。一番嬉しかったのは、毎年行っている宮崎・三股町の永山(智行)さんと町民のみなさんが動画を撮ってくれて。

五島:「まちドラ!」の人たちがね。

高野:「PUYEY、優勝おめでとう!」って。こふく劇場のみんなと撮った動画が送られてきて。

五島:あと、単純に女性作家が優勝したのが…

高野:チャンピオン大会でも女性なのは私一人なので。

五島:出場団体には女性の作家・演出家はいるんですけど。

――女性初の優勝というので何かあったということでしょうか?

高野:特にはないんですけど、私的には、例えば劇トツのチャンピオン大会のチラシでも男性だけの顔ぶれだと若手の子が「作・演とか劇団代表とかって基本、男性なのかな」ってイメージが刷り込まれちゃうけど、私がこうやっていることで「やってもいいんだよ」って。女性がやっても変じゃないよ、性別によって能力に差があるわけではないというメッセージになったんじゃないかなと。

――それは大切なメッセージですね。優勝公演は満席でした?

五島:ほぼほぼ満席でした!

高野:劇場のサポートも受けながら、チケット販売は自分たちでも頑張りましたね。

五島:できるだけ自分たちでやりたいと思って。ネットショップでチケットを販売・管理するという工夫はしました。

高野:制作の菅原さんが本領発揮してくださいました。広報の情報の出し方が上手で。新聞・雑誌・ポスターなど手広くやってくださって、新規のお客さんが増えて。

五島:劇トツのファンもいるんでしょうけど、なかなかそこだけでは集客は難しいので。

――今回のチャンピオン大会をやるという話はいつ聞かれたんですか。

五島:去年、片付けの間に呼ばれて。その時点で、来年はチャンピオン大会を中劇場でやると決まっていて。

――チャンピオン大会をやると知らされて、いかがでした? 歴代の猛者が一堂に会するわけで。

五島:もうバトルしなくていいんじゃないかと。

高野:フェスでいいんじゃないかって。でもやっぱりこのメンツでやるということが、緊張しましたね、聞いて。肩を並べることに。

チャンピオン大会優勝作『おんたろう』より 撮影:ふじまつたえこ 

――4月にやった優勝公演は、尺も長くなり、おんたろうも複数に増えて、ある意味では「バージョンアップ」です。その3か月後には元に戻った作品の上演…原点に戻っただけなんだけど「バージョンダウン」という印象を与える不安はなかったですか?

高野:それはなかったですね。逆に『おんたろうズ』から『おんたろう』に戻ってきた時に伝えるべきことがすごくクリアになって。初演は手探りのところがあったけれど、シーンごとに伝える所がクリアになったので。同じ作品だけど見える景色が違うなという感じがありましたね。

五島:今回のチャンピオン大会において、初演の『おんたろう』優勝公演『おんたろうズ』を、両方見てる人、片方だけを見てる人、どっちも見てない人が客席に混在していることがいいんじゃないかと思って。『スターウォーズ』みたいな(笑)。どこから見てもいい。

――チャンピオン大会の時には他の劇団の作品をご覧になってどうでしたか。

高野:楽しかったです。ゲネの時に見せてもらって、これは本当にお祭りだなと。F’s Companyを久しぶりに見て、丁寧な作りとか切り取り方とか…ああ、福田さんの作品だと思ったし、やっぱりチャンピオンたちが集まってるというのを作品のクオリティからも感じました。不思議少年の『スキューバ』も初演から観てるけど作品と再会できたのが嬉しくて涙が出ちゃった。ヒロシはいつも通りでいてくれるのが嬉しい。ブルーエゴナグの新作も、うわぁ劇トツで挑戦してるって。チャンピオンたちの作品を一回で見れるというのが贅沢だなと。

五島:見本市としてはすごく。

高野:上演順が決まってたので、この人たちの後で私たちやるんだ、もうお客さん疲れてるでしょ…と。他の作品見て、スゴイ楽しんだのもあるし、ちょっとプレッシャーも。

五島:前日のゲネの時は、客席にお客さんも入ってないので反応もないので、不思議な気持ちでいて。チャンピオン大会だしお金も絡んでいるので、自分たちが一番面白いだろうという気持ちでいて、

高野:ライバル視ってこと?

五島:そそそそ。一番いやなのは、自分たちがただ楽しくやって、演劇って楽しいでしょって姿勢だけを見せること。自分たちが面白いと思うことに全身全霊、究極的には命を懸けることが舞台上で行われているといいなと思っていて、でもゲネではそこまで感じなかったんですね。自分たちのゲネがボロボロで、むちゃくちゃ緊張するやんと。でも本番になった時、モニターで(他劇団公演の)お客さんの反応を見て、なんかいいなと思ったんです。どこが優勝してもおかしくないと思って。前日もあまりうまくいかなかったのを経ているので、やるべきことをやろうという気持ちで臨んで、終わった後も「終わったね!優勝できなくても笑顔で帰れるね」って3人で話していて。そういう気持ちになれたのは、どこの上演も良かったということだと。

――そう思いつつも、しかし、優勝! 

高野:めっちゃびっくりしました。びっくり泣きしました。人ってビックリすると泣くんだと(笑)。

五島:直前までは優勝行けるやろなと思っていても、開票しますとなると無理かもな、と保険かけちゃうんですね。表示される10秒前ぐらい。

撮影:ふじまつたえこ

――今回の優勝は去年の優勝と反応に違いがありましたか?

高野:チャンピオン大会での優勝が、今関わっている人に「言える!」と。翌週に高校の先生たちの労働組合で『おんたろう』をやるって決まっていたんです。私たちを紹介する先生が、とっても嬉しそうにこの優勝のことを付け加えて紹介してくださって。私たちを誰かに紹介してくださる人たちが上司に説明しやすいとか、(その肩書を)使ってもらえるというのが、良かったなと。

五島:説得力になる。

――お二人が変わったわけではないけれど、仕事がしやすくなったり周りが紹介しやすくなったりするということですよね。色んな所で共感していただけそうな作品ですし、大切にしてずっと再演を続けてほしいです。本当におめでとうございました。

チャンピオン大会終了後、参加劇団全員で記念撮影 撮影:ふじまつたえこ
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