インタビュー:ギムレットには早すぎる

村岡勇輔さん(左)と松永琳太郎さん(右)

*福岡市内で活躍する「ギムレットに早すぎる」という若手演劇ユニットが、なんと全国学生演劇祭で大賞(および審査員最優秀賞・観客賞3位)を受賞! この快挙を聞きつけメンバーの村岡勇輔さんと松永琳太郎さんのお二人に、受賞作や東京での演劇祭についてお話を伺った。


「ギムレットには早すぎる」とは

 村岡勇輔、下沖悠人(大学4年)、松永琳太郎(修士1年)、玉城栄琉、山下万希(大学4年)の5名による若い劇団である。それぞれ大学は異なるが村岡と下沖が学生演劇祭実行委員会で知り合い、「福岡学生演劇祭’21」に出場するために本劇団を作った。旗揚げメンバーは2020年12月のロクコレに参加した、集会ルロの作品『後転する未来』にて共演した村岡、下沖、松永、玉城の4名。翌年2021年のロクコレ2にて、ギムレットには早すぎる『第三高校釣り部』での出演を経て、山下が加入した。結成以来、自主公演のみならず、派生ユニットなど形を変えながらいくつもの作品を上演してきている。「複数の脚本家・演出家がいる」ことを強みとしている。

 2022年8月の福岡学生演劇祭にて審査員賞と観客投票1位を獲得し、2023年3月に東京で行われた「第8回全国学生演劇祭」にて大賞および審査員最優秀賞・観客賞3位を受賞。5月にはぽんプラザホールにてその凱旋公演を行った。

インタビュー


――全国学生演劇祭での大賞、おめでとうございます!

:ありがとうございます。

――まずは全国に出場するまでの経緯を教えてください。

:2022年の夏にももちパレスで福岡学生演劇祭がありました。これは2015年が1回目で、(2022年が)第8回目でした。この時は…出場団体が4団体でした。審査員は有門正太郎さん(有門正太郎プレゼンツ主宰、作家・演出家・俳優)、菅原力さん(制作者)、菅本千尋(演劇空間ロッカクナット、照明家)さん。審査員賞と観客賞、そして大賞を頂きました。

――審査員賞と観客賞とは?

:3人の審査員がそれぞれ出す賞です。場合によっては、3人の審査員で、審査員賞が一つや二つになることもあります。そして観客投票平均点で1位だったら観客賞がもらえます。審査員賞はうちと「スムっと」さんがもらったかな。大賞は、審査員賞をもらった団体の中で一番観客投票の平均点が高い所がもらえるという条件で、(ギム早が)もらいました。大賞をもらったので、その半年後の23年3月に東京での全国学生演劇祭にいくことになりました。

――東京行きには交通費の援助などあるんですか? 失礼ながら学生さんには大きい出費ですよね。

:全国学生演劇祭の方から、一人1万円の旅費と、宿泊日数×1000円が援助されました。

――それじゃ、足りない…ですよね。

:あ、でも福岡学生演劇祭の副賞として3万円のJTB旅行券をもらったんです。…ただ、下沖がそれを額縁に入れて飾っていて、全員その存在を忘れていて(笑)。後から「そういや、あの旅行券どうなった?」って(笑)。今でも下沖の家に飾ってありますよ。

――(笑) 全国の演劇祭は、条件などは福岡と同じなんですか?

:全国は上演時間が45分で、福岡は仕込みの5分も含めて35分以内という違いがありました。それと、福岡は学生じゃないと参加はダメだったんです。今までは良かったんで、当然僕(村岡)も参加するつもりでいたら、去年からダメになって。でも、全国の方は「学生を中心として」と書かれていたんで、社会人がいてもいいんだなと思って参加しました。

:上演時間が延びたこともあるんですけど、実は作品も福岡の時とは少し変わったんです。福岡の演劇祭では『ひとり』というタイトルで(東京学生演劇祭では『今―ちゃー』)、演出家も変わったんです。

――え? それはブラッシュアップするために変えたということですか? 説明してもらえますか。

:脚本と出演者は同じです。元々、演出は下沖で、岡部竜弥君(末席ユニットちりあくた)の脚本をまったく変えずに作りました。潤色なしです。その時は、僕(松永)は院試の直前だったから全く関わっていませんでした。

 ただ、全国に行けることになって、下沖がスケジュールの都合でどうしても無理だということになったんです。下沖からの名指しで僕が演出することになりました。裏方のスタッフもガラッと変わっているんですけど、東京に全てのスタッフを連れていく事はできないという理由もあって。

――なるほど。「下沖さんが演出の時は潤色なし」という言い方ということは、松永さんに演出が変わると少しは変わったということですか?

:3,4割は潤色しました。タイトルも『ひとり』から『今ーちゃー』に変わっています。潤色はもともとあまり予定になく、稽古中に松永が思いついた案を入れていったら結果的に潤色という形になった、と言うのが正しいかもです。脚本は書いた岡部君自身が投影されていて、岡部君のクセみたいなものもあるので、それを(出演する俳優の)山下万希自身に変えたということです。主人公の性格も違うし…言葉のチョイスも違いますね。

――もう少し説明してもらえますか?

:福岡でやった『ひとり』では主人公もひょうひょうとしてクールな感じだったんですけど、熱く泥臭くという感じに変えました。ダサい大学生にしようと。

:福岡では囲み舞台だったので、そうでなくなった点も大きいです。道具の配置をどうするかとか、使い方とか。これは東京での審査員にほめられたところですけど走っている俳優が「むしろ気持ちいいです」というセリフの後にハードルを飛び越えて、走っている自分を客観視しながら、その様子をお客さんに説明するシーンが加わりました。

――東京学生演劇祭について教えてください。今年の3月9日から12日まで「すみだパークシアター倉」で開催されたんですよね。

:それ「すみだパークシアター倉(そう)」って読むんですよ。ぼく等も「くら」かと思ってました(笑)。

 3月6日に東京に行って、「場当たり」が1団体70分と決まっていたので時間がなくて。あとは、7日から9日までは稽古以外は自由にしてました。

 すみだパークシアター倉の客席や舞台はぽんプラザホール(福岡)に似ていました。客席とスタッフの劇場への動線として分かりにくい感じで、舞台袖は広いです。

――公演はいかがでしたか。

:とにかくお客さんが温かかったです。一番大きな感想は、演劇文化の違いを感じました。趣味としての観劇が、段違いで東京は多いと思いました。サラリーマンのような背広姿の人も多かったですし。それゆえに楽しもうとしてくれる人が多いと思いました。ぼく(松永)の演出の特徴は、コメディというかユーモアが多いんですけど、そういう所でちゃんと笑ってくれました。

――福岡は違いますか?

:福岡の方は、観劇をたしなむ人口が少ないせいか、演劇をプレイヤーとしてやっていたり、いつも見に来る方が目立つ印象がありますかね。それに対して、東京は観劇をシンプルに楽しもうとしているお客さんが多いというのを肌感(覚)として持ちました。例えば、前半はコメディですけど、きちんと狙ったところで笑ってくれるんです。バーテンのシーンは受けたし拍手もでました。後半になると静かなトーンなんですけど、泣いている方もいました。

――上演して何か変わりましたか?

:それまでは他の団体の作品に圧倒されるんだろうなと思って行ったんです。でも意外と自分たちも自信持っていいんだと。もちろん、「劇団二進数」さん(東京代表)とか、クオリティもすごいんですけど、自分たちも地域差を気にせずにやっていいんだと思えたのは大きかったです。

――「劇団二進数」は、東京代表で観客投票数第1位、審査員奨励賞も受賞した劇団ですね。

:ダントツの観客投票数。もう、オーラがすごくて。東京だな!と思いました(笑)。ただの美男美女じゃないんです。こちらがファンになってしまうぐらいの…。

――他の劇団は?

:「餓鬼の断食」さん(奈良代表)も勉強になりました。

――観客投票というのはどうやるんですか。

:アンケート用紙に点数を記入するんです。5点満点の。

――ギム早のみなさんは、審査員最優秀賞と大賞受賞ですね。観客投票は2位と僅差の3位でした。

:大賞の条件が、審査員賞をとった団体の中で観客投票が3位以内の団体がもらえるんです。ちなみに、「劇団二進数」と「劇団ゲスワーク」(京都代表)が審査員奨励賞を受賞していますがこれは急遽できた賞です。

――審査員の講評で印象に残っている言葉はありますか。

:「一緒に仕事がしたい」と登紀子さん(プロデューサー)が言ってくださったのが…「上京してもいけるんじゃないの」って。それと、山本さん(山本卓卓、範宙遊泳主宰・劇作家・演出家)が「バッドエンドにも持っていけるかと思ったけど~」とおっしゃっていて。自分ならそういうラストにする、と。それも学びになりました。

確かに、ピリピリしていたらこんな写真は撮らないですね(笑)。

――出場したほかの地域の劇団からのコメントは?

:面白かったとか、笑ったとか。団体の雰囲気も褒められました。割と他は本番前ということもあってピリピリしていたんですけど、ぼくらはリハも楽しんでたし観光も行ったし、音響や照明なども含めたチームワークがすごくいいって言われましたね。

――見事に大賞を受賞して…福岡では何か変化がありました?

:SNS上では反応があったかな…? なにより、ぼくらに自信がつきました。堂々と作品を作れる気概を持てたということです。助言をうのみにするのではなく、咀嚼していけばいいんだという。

――それは1番の収穫ですね。凱旋公演もとても面白かったですし、今後も期待しています。素敵な作品をこれからも見せてくださいね。ありがとうございました。

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